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膝の外側が痛い!
腸脛靱帯炎(ちょうけいじんたいえん)が起こるメカニズムと治療・リハビリ方法

膝の怪我というと、皆さんは何をイメージするでしょうか?

アールビーズスポーツ財団が毎年行うランナー世論調査(2017)によると、ランナーが抱える痛みの第一位はダントツで「膝」だということがわかりました。(※2018年は怪我に関する調査なし)

【ランナー世論調査2017】

ランナーズ世論調査2017

膝はランニングにかかわらず、運動を行う上では非常に重要な関節なので、ここでのトラブルは大きな問題となります。非常に複雑な構造をしていて、怪我が多い場所だということはイメージが湧きやすいでしょう。今回はそんな膝のトラブルの中でもランナーには特に多いといわれている腸脛靱帯炎(ちょうけいじんたいえん)について解説していきたいと思います。

 

1分でわかる腸脛靱帯炎

✔️腸脛靭帯はお尻からふくらはぎの外側まで続く長い靭帯であり、膝だけに関係する靭帯ではない

✔️腸脛靱帯炎では膝のお皿の外側からやや上にあがったところが痛む

✔️腸脛靭帯は中臀筋や大腿筋膜張筋が移行する形で出来た非常に硬い組織である

✔️膝の屈曲動作によって腸脛靭帯は大腿骨の外側の出っ張り部分(外側上顆)と擦れてその周辺で炎症が起こる

✔️腸脛靭帯炎はランナーに頻発するため、「ランナー膝」とも呼ばれている

✔️走りすぎは腸脛靱帯炎の原因になるが、O脚やふくらはぎのねじれも原因になりうる

 

腸脛靭帯ってどんな組織?

腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)は膝に関係する靭帯の一つです。しかし、実施には「膝の靭帯」というよりも「腰から膝の下まで続く長い靭帯」です。膝だけに関わっているわけではないところはとても大きなポイントですね。この靭帯は大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)と大臀筋(だいでんきん)という二つの筋が合わさってできています。筋が腱組織に移行して「腸脛靭帯」と名前を変え、太ももの外側を通って膝の下まで続きます。非常に強くて硬い組織です。運動する上でとても重要な役目を果たしていて、脚を外に広げたり(外転)、膝や股関節を曲げたり(屈曲)伸ばしたり(伸展)かなり様々な動きに関わっています。

そんな腸脛靭帯ですが外から簡単に触れる組織です。ためしに横になって上になっている足を少しずらして足を内側に倒すと太ももの外側が硬くなります。そこが腸脛靭帯です。腸脛靭帯は筋のように伸び縮みする組織ではありませんが、姿勢によって強く張ります。つまり、姿勢や動きが悪いとそれだけ靭帯に負担がかかるということでもあるので、動きの良し悪しは腸脛靱帯炎の原因になりそうだなということはここからもわかりますよね。

 

腸脛靭帯はなぜ「ランナー膝」と呼ばれるのか?

そんな腸脛靭帯は股関節の動きを膝に伝える作用もあるため、運動をスムーズに行う上では欠かせない存在です。ランニング動作は膝の曲げ伸ばしが多いため、腸脛靭帯に負担がかかりやすく、その結果ランナーに頻発する怪我なので、「ランナー膝」と呼ばれるようになりました。

注意しなければならないのは、ランナーにしか起こらない怪我ではないということです。ランナーに多いのは事実ですが、それだけに限りません。職業柄、膝の曲げ伸ばしが多い方や、O脚の方などは腸脛靱帯炎になるリスクがあるので注意が必要です。

ちなみに、「ランナー膝」と呼ばれるものは腸脛靱帯炎だけではありません。膝のお皿の下あたりに痛みが出る膝蓋靱帯炎(しつがいじんたいえん)も「ランナー膝」の一種と呼ばれることがあります。また、そう呼ばれていなくても膝の内側に痛みが出る鵞足炎(がそくえん)や膝のお皿の裏側に痛みが出るタナ障害などもランニングが引き金になって起こりやすい膝の怪我です。

これだけ見てもランナーと膝の怪我は非常に関係が深いものだということが分かりますよね。一旦強い痛みが出てしまうと、完全に痛みが引くまでには時間がかかるので、初期の対応や再発予防のための体づくりはとても重要です。

 

腸脛靭帯炎の原因

腸脛靭帯は太ももの外側を走る長い靭帯だということは上述した通りです。非常に強固で、強い靭帯ですが、実はストレスを受けやすい構造になっています。太ももの下の方はバットのグリップエンドのように膨らんでいます。この出っ張りを外側上顆というのですが、腸脛靭帯は膝の曲げ伸ばしのたびに、このでっぱりに擦り付けられてストレスを受ける構造になっています。
靭帯と骨の間には脂肪のクッションがあるのですが、それもストレスに耐えられなくなると、炎症が起き痛みを感じるようになってしまいます。腸脛靭帯炎というと、靭帯そのものが炎症しているというイメージがありますが、実際にはクッションとなっている脂肪がダメージを受けているということが近年の研究で分かってきています。

【腸脛靭帯に繰り返しかかるストレス】

基本的には、こういった膝の曲げ伸ばし動作が引きがねになるのですが、腸脛靭帯がストレスを受けやすい動作や体の癖があるので、ここではそういった原因を助長する要因について解説していきたいと思います。

過度のランニング動作による摩擦の増強

まずはランニング動作の基本についての理解が必要です。ちょっとややこしい解説になりますが、よく読み込んでイメージしてみてください。
ランニング動作は地面に足がつく瞬間に膝を曲げて衝撃を吸収します(①)。
これは誰もが自然に獲得する動作で、人間が持つ重要なクッション作用の一つです。
膝が衝撃を吸収した後(②)、体を持ち上げるために徐々に伸びながら、足が地面から離れるまで力を伝え続けます(③)。
地面から足が離れた後(④)は、膝は少しずつ曲がり、膝を折りたたんだ状態で脚を前に運ぶのですがこの時に膝は最大に曲がった状態になります。(⑤)
その後膝は徐々に伸びていき(⑥)地面に接地する瞬間に膝は最も伸びた状態になり接地。
これが一連のランニングサイクルです。

ランニング動作では足を一歩進める間に膝の曲げ伸ばしが2回繰り返されます。体がまだ元気なうちは良いのですが、疲れてくるとフォームが崩れ、膝のクッション作用も体重を支えきれなくなってしまい、結果的に腸脛靭帯に負担がかかってしまいます。
練習量が多い、疲労状態のまま練習を続けている、そもそもフォームに問題があるといった方は特に注意が必要ですね。腸脛靭帯炎を繰り返してしまう方はランニングフォームを修正する必要があるでしょう。

O脚

O脚は腸脛靱帯炎を起こしやすい一要因になります。O脚の方の場合、膝が外側に広がるようになります。これによって腸脛靭帯は外側に引っ張られ、大腿骨にある出っ張り(外側上顆)と擦れやすくなってしまいます。O脚の方が腸脛靱帯炎になりやすいは、このためです。

O脚は治らないと思われがちですが、そんなことはありません。時間はかかりますが筋トレなど地道な取り組みによって改善につながります。

ふくらはぎの捻れ

腸脛靭帯の緊張はふくらはぎのねじれによっても起こります。お尻の筋から派生した腸脛靭帯は最終的にふくらはぎの骨(脛骨)にくっつくのですが、ふくらはぎが内側にねじれると腸脛靭帯過剰に引っ張られてしまいます。結果的に腸脛靭帯の緊張感は高まり、腸脛靭帯と大腿骨の出っ張り(外側上顆)が擦れて、腸脛靭帯炎を誘発してしまいます。

では、ふくらはぎが内側にねじれる原因は何でしょうか?

一つ要因としてあげられるのが、太ももの内側にある内転筋群の作用になります。内転筋群は足を内転(内側に寄せる)働きがありますが、骨を内側に捻る作用もあります。内転筋が過剰に働いたり、硬くなってうまく使えなくなると様々な悪影響を及ぼしてしまいます。腸脛靱帯炎という症状は太ももの外側に起こる症状ですが、ふとももの内側の筋も症状につながるため、この部分の筋バランスを整えることも非常に重要です。

外側広筋の緊張

腸脛靭帯と太ももの外側の突起の間にある脂肪組織は外側広筋(がいそくこうきん)と呼ばれる筋と接しています。
外側広筋とは、太ももの前面外側に位置する大きな筋で、膝を伸ばす時に力を発揮する筋のことです。この筋が緊張してしまうと、腸脛靭帯の下にある脂肪組織を圧迫してしまうため、結果的に腸脛靭帯へのストレスは強くなってしまい、痛みを引き起こしてしまいます。

皮膚からでも触れる大きな筋なので、腸脛靭帯炎で悩んでいる方はここが硬くなっていないかチェックしてみてください。

 

腸脛靭帯炎の症状

腸脛靭帯炎は「膝の外側に痛みが出る症状」と認識されていますが、実際には膝のお皿から少し「外」かつ「上」にずれた場所にピンポイントで痛みが出ます。膝というよりも「太ももの外側」と言ったほうが正確に痛みのポイントを表しています。単に「腸脛靱帯炎=膝の外側が痛む」とだけ認識していると、怪我を読み違えてしまうので、注意が必要です。

初期症状は運動時の痛みに限定され、運動を終えると痛みは引くことがほとんど。ウォーミングアップによって身体が温まることで痛みが低下する方もいるので、我慢したり放置されることも少なくありません。もちろん、この初期対応はNG。初期症状を軽視してしまうと悪化につながる恐れがあります。そのまま運動を続けていると、次第に運動を終えた後も痛みが引かなくなってしまい、慢性化しかねません。初期の段階でどれだけ必要な処置を適切に受けられるかが大きなポイントです。

初期は膝の外側やや上方に痛みがピンポイントで出ますが、人によっては腸脛靭帯に沿って太ももの外側に痛みが広がることもあります。どんな怪我でもそうですが、症状には個人差があるので小さな症状も含めて治療を担当してくれる人にしっかり伝えるようにしてください。

また、腸脛靭帯炎を起こした方の中には、股関節の詰まり感や違和感を訴える方もいます。腸脛靭帯は上述したように、大臀筋、大腿筋膜張筋という二つの大きな筋が元になっています。この二つの筋は股関節を動かす上で非常に重要な筋です。腸脛靭帯炎の症状が二次的、三次的に広がってくると関連のある部位に様々な症状が出るので、痛みが出ているのが膝付近だとしても、治療が必要な場所はそのほかにもあると理解してください。

 

腸脛靭帯炎の改善

長慶靱帯炎の治療は辛抱強く取り組む必要があります。ランニングフォームが原因になっていることは間違いありませんが、そこにアプローチして痛みの原因を取るためには時間がかかってしまいます。痛みそのものの治療(症状治療)と痛みの原因になったものの改善(原因治療)をバランスよく行っていくようにしましょう。

腸脛靱帯炎の「痛み」に対してのアプローチ

痛み自体は患部の炎症が原因です。膝の曲げ伸ばしに伴う摩擦によって腸脛靱帯にかかるストレスが増すと炎症に繋がるので、この炎症に対しての処置を第一優先に行なっていきましょう。炎症に対しての処置としては患部の安静が大原則です。痛みがある時に無理に動かすことは傷口に塩を塗る行為になってしまうので、無理は禁物です。
また、消炎鎮痛作用のある薬剤も程度によって活用してください。こちらは現在薬局などでも買えますが整形外科で処方してもらい、用法容量を相談した上で使うことがおススメです。怪我を自己判断することほど危険なことはありませんからね。

腸脛靱帯炎の「原因」に対してのアプローチ

ランニング障害の大部分はランニングフォームがきっかけであることがほとんどです。ランニングフォームへのアプローチなしに根本的な改善にはなかなかつながりません。そういったランニングフォームを作るものは筋力と筋の使い方なので、この二つへのアブローチは上手に行なっていきましょう。

腸脛靭帯炎の場合は靭帯の元となっている大臀筋、大腿筋膜張筋が硬くなっていることが多いです。ストレッチやマッサージを行なって正常な状態に戻していきましょう。

【大腿筋膜張筋、臀筋群のストレッチ】

また、逆にうまく使えていない場合も腸脛靭帯の緊張は強くなってしまいます。そういったときは筋を正しく動かせるようにトレーニングする必要があります。
例えば、うつ伏せになった状態で膝を曲げ、そのまま太ももを浮かせるように持ち上げてみてください。お尻が浮いて腰が反ってしまうようであれば、臀部がうまく使えておらず、腰の筋をつかって足を操作していることになります。本来の望ましい使い方ではないので、正しくお尻が使えるように誘導してあげる必要があります。同様に中臀筋、内転筋、外側広筋も正しく動かせるようにしましょう。

【PHEテスト】

 

まとめ

いかがだったでしょうか?

今回は腸脛靱帯炎というランナーにとって馴染みの深い膝のトラブルを取り上げましたが、膝は複雑な構造をしているので、単純な怪我じゃないことも実はあります。原因がなかなかわからない膝の痛みに悩んでいる方であれば、まずは色々な怪我の基礎基本を調べて自分の症状と照らし合わせてみてください。何か自分の症状と重なるものがあるかもしれませんしね。

また、違う診断名がつく膝の怪我であっても、膝に良いとされるトレーニングは共通するものも多いです。今回ご紹介した改善のトレーニングが違う膝のトラブルにも通用する場面は少なくないと思います。
膝の痛みはもう治らないよと諦めたり、痛みを我慢したりしないでください。痛みを改善させるためのヒントは必ずどこかにありますよ!

May 15, 2019/怪我・故障/

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