アキレス腱が痛い!ランナーに頻発するアキレス腱痛のメカニズムと治療・リハビリ方法

ギリシャ神話の中で出てくる英雄「アキレス」。

神話の中でも指折りの英雄であり、多くのエピソードが残されています。アキレスの大きな特徴は「ほぼ不死身」ということ。というのも、アキレスが幼少の頃、不慮の事故で亡くなることを心配した母(テティス)がアキレスの足首を掴んで冥府を流れる川に突っ込んで浸したことで、その能力がついたようです。以来超人的な能力で次々と伝説を作っていきました。

ところが、彼が母によって冥府の川に浸けられた際、唯一川の水に浸されなかったのが足首。川につけられなかったがゆえに、その部分だけ不死身の肉体にはならなかったようです。数々の激戦を圧倒的な力でねじ伏せてきたアキレスでしたが、ある戦いで弓矢の名手に足首を狙われ、それが原因で亡くなってしまいました。

もうお分かりですよね。アキレスが冥府の川に浸からなかった足首の部分が「アキレス腱」です。人の弱点の例えとして様々な慣用句でも使われていて、ランナーも痛めやすい場所です。ランニング中には大きな負担がアキレス腱にかかっています。今回はそういたアキレス腱にまつわる様々な痛みについて解説していきます。

 

アキレス腱とは

アキレス腱とは、ふくらはぎの筋とかかとをつなぐ長い腱組織のことです。ふくらはぎの筋(腓腹筋、ヒラメ筋)はかかとに向かって伸びる途中で「アキレス腱」に移行します。非常に頑丈な組織であり、本来ならば1トンの負荷にも耐えられるほど強くて強靭な組織です。にも関わらず、アキレス腱が「弱点」の象徴のように扱われる側面もあるので、非常にデリケートな組織であるということがわかりますよね。そもそもアキレス腱は外から簡単に触ることができるので、そういった意味では明らかな「弱点」といわざるをえないのかもしれません。

アキレス腱を詳しく見ていく時、「アキレス腱そのもの」とアキレス腱がかかとの骨にくっつく「アキレス腱付着部」を分けてみていった方がより深い理解ができます。やや小難しい話ですが、ぜひじっくり読み込んでみてください!

アキレス腱部

アキレス腱自体はふくらはぎの筋から移行する過程で徐々に細くなり、その後かかとに付着する際に再びまた広がります。少し特殊な形をしていますが、足部にかかる様々な負担に耐えられるように構造的に変化したと考えられています。また、アキレス腱には「ねじれ構造」があります。少し複雑な話になってしまいましたが、ふくらはぎの複数の筋がねじれるように合わさり、アキレス腱になっているということです。何かイメージしやすいものがないかなと探していたら、ぴったりのものがありました。金沢駅の鼓門(つづみもん)の柱。まさにこんな感じです〜

ねじれの程度には個人差があります。日本人のうち約25%はほとんどねじれていないタイプのアキレス腱をしているようですね。アキレス腱のねじれに関する研究報告もあるので、詳しくはこちら(アキレス腱のねじれ構造の肉眼解剖学的検討)をご覧ください。

また、アキレス腱はパラテノンと呼ばれる膜に包まれています。パラテノンには血管と神経が豊富に含まれていて、パラテノンがアキレス腱に栄養を供給しています。アキレス腱はこのパラテノンの中を滑るように動きます。これによってアキレス腱自体にかかる摩擦を軽減しているのですが、それが過剰になれば当然痛みにもなります。

アキレス腱付着部

アキレス腱自体はかかとの骨(踵骨)の後方2/3に約2×2cmの範囲に及んで付着しています。人間の体の中で腱が骨に付着する範囲としてはかなり広いです。それだけここに引っ張る力(牽引力)が集中しているということですね。かかとの骨を押すと痛いという方いませんか?

このようなアキレス腱への負担を減らすために、アキレス腱の周囲には2つの滑液包(かつえきほう)があります。滑液包とはアキレス腱の滑りをなめらかにするため、「滑液」という粘度の高い液体を出してくれる組織です。人間の身体には様々な場所に滑液包があって、どの滑液包も人間がスムーズに動くためにはなくてはなりません。アキレス腱周囲の場合は、前方に後踵骨滑液包(こうしょうこつかつえきほう)、後方にはアキレス腱滑液包(あきれすけんかつえきほう)があり、いずれもとても重要な役目を果たしています。

また、アキレス腱は後脛骨動脈(こうけいこつどうみゃく)や腓骨動脈(ひこつどうみゃく)から血液を供給されるのですが、アキレス腱がくっつく付着部から2〜6cm上付近は血流が比較的少ないため、この部分でアキレス腱が変性したり、断裂が起きやすくなったりします。

 

アキレス腱痛の種類

上述したようにアキレス腱は非常に強い組織です。それでも常にストレスがかかり続けたり、アキレス腱の一部が硬くなって変性したりするとアキレス腱はダメージを受けてしまいます。一般的には踏み込みやジャンプの着地時には、アキレス腱が強く引き伸ばされるのでダメージとなって蓄積、それが様々なトラブルを引き起こします。ランニングは最たるもんですね

アキレス腱のトラブルといってもどこを痛めるかで状況は変わってきます。少し細かくみていきましょう。

 

アキレス腱症(アキレス腱炎)

アキレス腱そのものにダメージが及べばアキレス腱自体が痛くなります。一般的には「アキレス腱炎」と呼ばれることが多いですが、「炎症」というよりも、「変性」が起きていることの方が多いので「アキレス腱症」と表記した方が実態に即しています。変性というと少し分かりにくいですが、正しい動きができなかったり、正しい機能を失ったりしていて、痛みが発生していると思ってください。場合によってはわずかに損傷していることもあります。

常に負担がかかり続ければ、やがて切れてしまう可能性もあり、こうなるともはやアキレス腱症ではなく、「アキレス腱断裂」となります。もちろんこれはもちろん大怪我ですね。アキレス腱断裂を経験した方にその時の様子を聞くと、「ハンマーでガンと叩かれたような強い衝撃が伝わってきた!!」「バチンと音がした!!」という表現を使いますが、それくらい大きな衝撃ということでしょう。

アキレス腱周囲炎

アキレス腱の周囲にある組織には上述した「パラテノン」の他に、Kager’s fat pad(ケーラー脂肪体)」という脂肪のクッションがあります。これはアキレス腱の深層にあってアキレス腱と筋の間にある隙間を埋めるように発達してきました。Kager’s fat padのおかげでアキレス腱はスムーズに動き、アキレス腱にかかる負担も分散してくれるので、これも非常に重要な組織です。

この「パラテノン」や「Kager’s fat pad」がダメージを受けて炎症反応を起こしている状態をアキレス腱周囲炎といいます。

 

アキレス腱滑液包炎

アキレス腱の動きをスムーズにするために重要な組織が滑液包。アキレス腱を挟むように前方と後方にそれぞれ滑液包が存在しています。この滑液包に繰り返し負担がかかることで、炎症が起きるのがアキレス腱滑液包炎です。

ランナーの場合、シューズのヒールカップの硬い部分とアキレス腱が擦れて当たった時に発症する「後方型」が多いです。シューズはランナーにとっては非常に重要なアイテムなので、足にあわないものをくり返し履くのはよくないので、足に合っているかどうかをよく確認するようにしてください。

アキレス腱滑液包炎は痛風や関節リウマチなどに併発して起こることもあります。そういったリスクがある以上、痛みがあまりにも強かったり、なかなか引かない場合は無理せず専門の医療機関にかかるようにしてください。詳しくはこちらのサイト(MSDマニュアル家庭版)をご覧ください。

 

アキレス腱痛の症状

アキレス腱痛の主たる症状はランニングの蹴り出し、ジャンプ、爪先立ちなど。これらの動作によって痛みが出るのですが、いずれも日常生活で比較的お馴染みの動作ですよね。アキレス腱には常に負担がかかっていると考えたほうがいいので、アキレス腱痛はちょっとやっかいです。症状の程度によっては腫れた感じや熱っぽさがみられることがります。いずれも一般的なランニング障害同様、運動時に痛みが強くみられるので、症状がみられたら無理せずきちんと治療するようにしてください。

アキレス腱やその周辺に明確な痛みが出る前に、違和感やギシギシとしたような感覚が出ることがあります。このサインは結構大事で、こういった身体からの声に気付けるか?早めの対処ができるか?で大きく予後は変わります。どんな怪我でも早期発見&早期治療は非常に大事なポイントになります。痛みやその兆候に気づいていても、放置していては意味がありません。”早期治療”の判断が取れるかどうかは「怪我に対する理解の差」だと思ってまいすし、ただトレーニングするだけでなく、色なん知識をしっかり入れてください。知ってることで減る怪我があるなら、是非知っておいたほうがいいですよね。

 

アキレス腱痛に対する治療

アキレス腱痛は非常に長引くことの多い障害です。歩いたり、走ったりと言った日常動作で常にストレスがかかるうえ、少しかばうような動きをすればなんとか痛みをごまかしながら生活したり、運動したりすることができるからです。痛いけど練習は休みたくない、医療機関に行くのはめんどくさいという理由で治療開始が遅れると、症状は悪化して逆に完治までに時間がかかることが多いので、無理は禁物です。休むこと&症状を見極めることも大事な治療の一つですよ!

安静

どんな怪我もきょうつうしますが、初期は「安静治療」が原則です。痛めたことろに負担をかけないというシンプルな治療法ですが、とても大切なことですね。上述したようにアキレス腱には常に負担がかかってしまうため、完全安静は難しいです。ただ、ジャンプやランニングやといったアキレス腱への負担が大きくなるような動きを意識的に避けることはできるので、そのようにしてください。運動は基本的に一旦中止です。

アキレス腱の断裂という状況でなければギプスで固めて完全に動かないようにするほどのことはありませんが、痛みの程度によって患部を保護する方法が変わってきます。綿包帯などを使って患部を固定して足首が動かないようにした方がいい時期もあれば、徐々に動かすためにテーピングやサポーターなどを使って半固定の状態の方がいい時もあります。適切なタイミングはとても難しいのですが、専門家と相談しながら正しい安静状態の確保と、適切なタイミングでの負荷ができると一番良いですね。

テーピング

アキレス腱痛の場合によく選択される治療法はテーピングです。テーピングは痛みを抑えるような効果はありませんが、患部にかかる負担を軽減させたり、患部の動きを正しい方向へ誘導したり、患部を圧迫させたりと言ったことができるので、現場では多用されています。テーッピング自体はかなり色々な貼り方があるので、これが良いというよりも、自分にあったものを実施してみるのがいいですね。テーピングも色々と参考にしてみてください。

セルフマサージ

アキレス腱は自分で触れる場所です。また、目で見て患部の確認もできるので実際に触ってどこがどんな風に痛いかを確認することをオススメします。アキレス腱そのものが痛いのか?周囲(パラテノン、Kager’s fat pad、滑液包など)が痛いのか?を見極めないとなかなか治療を絞ることができないですからね。

アキレス腱のどこが痛むかを判別する時は下記のように触って痛みを確認してみてください。

アキレス腱は引き伸ばされるときに周囲の組織に様々なストレスを与えます。仮にアキレス腱自体に問題が起こった場合、その周囲の組織も硬くなったり、動きが悪くなったりすることも多いので、直接触って緩みをだしておいたほうがいですね。もちろん触って痛みが出る場合はこう言ったセルフマッサージはできませんが、痛みの初期で患部以外は痛まない場合や、リハビリの後期で少しずつ練習に復帰したい段階ではこういったセルフマッサージも積極的にいれていってOKです。ぜひうまく取り入れていきましょう。

アキレス腱痛に対するリハビリ

アキレス腱周囲炎のリハビリのポイントは

・柔軟性を出すこと
・アキレス腱を強化すること

です。1つ目の柔軟性を出すということに関しては、治療のところで説明したセルフマッサージやストレッチを実行して欲しいのですが、ポイントは2つ目。「アキレス腱を強化する」というとあまり時馴染みはないかもしれませんが普段何気なくやっている動作がアキレス腱の強化に繋がっていることもよくあります。よく見かけるのはこの辺りのトレーニングですね。

陸上競技の跳躍種目の選手がよくやる補強種目です。代表的な動きなので今回ご紹介しましたが、こういった動きに慣れていなかったり、痛みが完全に引いていない場合は慎重におこなってください。マラソンをやる方は特に注意ですね。

もう少しマラソンランナー向けのリハビリトレーニングは「スティープ・ヒル・ランニグ」という動きです。これはアーサーリディアードがヒルトレーニングと称して広く市民ランナーにも勧めていた方法なので、難易度は高くないでしょう(個人差はありますが・・・)。ポイントは着地の瞬間にアキレス腱が引き伸ばされていることです。アキレス腱が瞬間的に引き伸ばされることによって腱に刺激が入り強化につながります。もちろんこの動作であっても痛みがきちんと引いてからのリハビリになるので実施のタイミングには十分注意してください。

まとめ

アキレス腱の痛みを訴える選手や患者さんは想像以上に多いです。自覚はなくても押してみると痛いと感じたり、マッサージされると気持ちいいと感じる人も多いので、負担がかかっているのはそういったところからもよく分かりますね。

アキレス腱の痛みで引退した選手は少なくありません。最近の選手だと山の神と呼ばれた柏原竜二くんがそうでしたね。僕の大学の同期の成迫( 400mH)もアキレス腱の痛みに悩まされた一人でした。自分が現場で感じたこと、学んで実践してきたこと、色々ありますが、それでも治らない(治せない)症状にぶち当たることは少なくありません。体のことなので、教科書通りに行かないことも多いのですが、基本的な情報を網羅して、ことあるごとにアップデートしていくことは大切でしょう。

アキレス腱に痛みがある人、不安がある人、悩んでいる人、あるいはそういった怪我を抱えている選手を見ている指導者の情報共有になれば幸いです。

June 15, 2019/怪我・故障/