腰痛とランニングの関係を考える
ランニングで腰が痛むメカニズムと予防、リハビリ方法

「月(にくづき)」に「要(かなめ)」と書いて「腰」。この漢字の成り立ちから見てもわかるように、腰は人間の体の中でとても重要な場所です。また、「腰が重い(なかなか行動をおこなさい)」「腰が据わる(落ち着いて物事をし続ける)」「腰を入れる(安定した姿勢をとる)」というように、腰にまつわる慣用句や言い回しは非常に多く、物事の要という意味でも「腰」という言葉は昔から使われてきました。

そんな腰に痛みが出ることが「腰痛」ですが、国民病と言われるほど現代人には馴染みが深く、厚生労働省の国民生活基礎調査(平成 28年度によると1300万人の方が腰痛に悩んでいるそうです。病気や怪我など自覚症状のある痛みの中で、腰痛は男性1位、女性2位という状況ですから「国民病」と言われる所以が垣間見えますよね。実に腰痛持ちが多いこと・・・

この「腰痛」はランナーにとっても他人事ではありません。腰が痛い状態で走ることは非常に大変ですし、日常生活にも支障が出てしまいます。そこで今回は、ランナーにとっての「腰痛」について詳しく解説していこうと思います。

 

 

腰痛治療の現状

国民病と呼ばれる「腰痛」。では、腰痛に対して、正しい理解と適切な処置がどれだけ施されているのでしょうか?

悩む人が多ければそれだけ研究も進み、治療方法もたくさんありそうですが、実は腰痛の8割以上は原因不明でレントゲンなどの画像に映らないものがほとんどと言われています。画像に映るものであれば原因を特定し、それに対しての治療も行いやすいのですが、原因がわからなければ治療方針はなかなか統一されず、結果的に『様々な腰痛治療』が出現してしまいます。恣意的に『様々な腰痛治療』と表記しましたが、とりあえず「揉む」とか「伸ばす」といった手技がまかり通ってしまいかねない現状だと感じているのでこう書かせてもらいました。もちろん、症状への治療にはマッサージやストレッチも必要&有効ですが、原因を絞らずに”とりあえず”の治療であったとすれば、それは大きな問題です。前回はよかったけど、今回はよくならないなどの治療結果にムラが出てしまいますし、そういったものは適切な治療&正しい処置とは言えません。

最近の研究報告をみていくと、これまで「原因不明」として片付けられてきた腰痛も、徐々に詳細な分類・評価ができるようになってきました。 原因不明の腰痛でも「推測して原因を絞ること」はできるようになってきています。

日々新しく更新される医療技術の中で、腰痛に関しては誰もが関心度の高い内容であることは間違いないのですが、情報が正しく整理されて一般の方に伝わっている状況とはまだ言えません。腰痛の病態整理は広くて深い内容なので、まとめるのも理解することも大変ですが、情報をきちんと整理しながら腰痛に関しての理解を深めることには大きな意義があるものです。ぜひこの機会に熟読してみてください。

 

腰痛の基礎知識

「腰痛とは何か?」というなんだか他愛のないような問いからスタートしようと思います。というのも、腰痛と一括りに言っても非常に幅広く、きちんと病態を把握していないと正しい治療ができないからです。小難しい単語も度々登場しますが、図やイラストを用いて出来るだけシンプルにお伝えしようと思います。

腰の構造

まずは腰の構造の理解から。腰は背骨(脊柱)の一部です。24個の椎骨(ついこつ)からなり、上からそれぞれ頚椎(けいつい)、胸椎(きょうつい)、腰椎(ようつい)と呼ばれ、それぞれがダルマ落としのように積み重なった構造をしているのが大きな特徴です。もし背骨が一本の芯棒のようにくっついていたとしたら、人間はお辞儀もできなければ体を反らすこともできません。オモチャの人形のように胴体に手足がついただけの構造になってしまうと、動きは制限されますし、スポーツはもちろん、ほとんどの日常動作は極めて困難になるでしょう。まぁ、想像はつきますよね。 背骨は「動く」ということがとても重要です。

腰は背骨の中でも腰椎(ようつい)と呼ばれる部分であり、頸椎や胸椎と比べても、特に頑丈です。実際の形を比べてみるとよく分かりますね(下図参照)。 腰の骨は椎体と呼ばれる部分が頑丈にできているので、体をしっかり支えることができ、前後に曲げ伸ばしする動きは得意です。その反面、ねじる動きは苦手で、「腰をひねるストレッチ」も解剖学的に見ると実は腰(腰椎)ではなく、胸(胸椎)が動いていることがよくあります。ストレッチの仕方一つとっても注意が必要ですね。

また、椎骨と椎骨の間には椎間板(ついかんばん)という組織があります。椎間板は背骨に体重がかかった時クッションのような役目を果たすことで、衝撃を緩和させてくれる働きがあります。非常に重要な組織ですね。脊椎は椎間板とその後方にある左右一対の椎間関節(ついかんかんせつ)で支えられ、姿勢によって3点にかかる荷重の分布は変わるようになっています。

腰痛ランニング

このような腰の骨(腰椎)の周辺には様々筋がくっついています。ただし、腰の筋というよりも、背中全体の筋の一部という方が正確です。筋がずっと繋がっているので腰単体で見るのは少し無理があるためです。さらにその表面は胸腰筋膜(きょうようきんまく)と呼ばれる膜に包まれており、これが広く上半身と下半身を繋いでいます。このおかげで、背中の動きは腰を介して下半身にもつながっていきます。胸腰筋膜は人間が滑らかな動きをする上で非常に重要な役目を果たしていることはこういった事からもよく分かるでしょう。

背中から腰にかけての解剖は掘り下げればキリがないのですが、この辺りを理解してもらえれば今回の話は分かりやすいかなと思います。

腰痛ランニング

腰痛の分類

「腰痛」と一括りにしましたが、痛みの原因やどこを痛めているかで分類することができます。「腰痛」を細かく言えば、この腰椎やその周辺組織にトラブルが出たり、腰椎の動作に伴って痛みが出ることを意味しているので、少し整理していきましょう。

腰痛には原因がはっきりしているものとそうではないものがあります。例えば「脊柱管狭窄症」であれば、神経が通っている脊柱管という場所が骨の変形などによって狭くなることで痛みやしびれが起こる症状です。「椎間板ヘルニア」であれば椎間板の髄核という組織が本来あるべき位置から飛び出て神経を刺激することで起こる神経症状です。詳しい説明はこの場では省かせてもらいますが、 画像に映ったり明らかな構造的異常がある場合は原因が特定しやすく治療の方針は明確になります。ただ、これは腰痛全体の2割しかないんですけどね・・・

(3)の一部や(4)の腰痛はレントゲンやMRIといった画像検査をしてみても、基本的に異常が見られることはありません。それでも、体を曲げたり(前屈)、反らしたり(後屈)すると結構な痛みがあり、しかもそれは生活に支障が出るレベルであることもあって、とても不便です。命に関わらない、原因を確定できないという意味で軽視されがちですが、本人にとっては大問題です。ただ、 原因不明と言われていても、痛みの「震源地」は必ずあって、様々なテストを行うことで推測することはできます。痛みの原因をしっかり絞った上で、治療にあたることは非常に重要ですね。

現時点では統一された評価基準がしっかり定まっているわけではないですし、治療者の熟練度によって症状の改善度に差が出ているのが状況です。知識や経験の差によって痛みを絞るための引き出しの「量」や「質」は変わるため、まだまだ十分な受け入れ態勢(=治療する側の受け入れ態勢)が整っているとは言い難いです。 もちろん腰痛を自己判断することはオススメしません。ただし、自分自身である程度の知識を持っておくことは重要です。迷ったらRUNNING CLINICをお読みください(笑)

 

ランニングにおける腰部の重要性

さて、ある意味ここからが本題!ランナーにとっての腰痛のお話をしたいと思います。ランニングは腰痛解消に有効と思われるかもしれませんが、実は腰痛に悩むランナーが多いということがランナー世論調査2017から分かっています。

なんと、ランナーの悩みの第2位が腰痛。この結果はある意味驚きですが、現場で治療をしていても確かに腰の不調を訴えるランナーはかなり多いです。 ただし、他のスポーツに比べてランニングが腰痛を引き起こしやすいかというとそういうわけではありません。ランニングが原因で腰痛になることももちろんありますが、他の種目と比べるとむしろ腰痛のリスクは少ないと思います。このランナー世論調査の結果は慎重に読み解く必要があるでしょうね。

ランニングという運動は腰を強く動かしたり、使ったりする運動ではありません。ただし、昔から 「腰を高くして走りなさい」というフォーム指導があるくらいなので、腰の使い方とランニングフォームの間には非常に密接な関係があることは間違いないでしょう。ランニングにおける腰部の重要性について以下にまとめてみました。

フォームの維持

ランニング動作は単純な動きの繰り返しになります。下肢を前後に動かして前に進む。説明不要なくらいシンプルですね(笑)

ランニング中、体を前に進めるために脚は常に前後方向へ動かされますが、腰は動かして使うというよりも、姿勢を維持するために使われます。つまり、腰は下肢とは全然違う意味合いでランニング動作に重要な役目を果たしているということです。相手とぶつかって力比べをするようなスポーツとは違って、ランニングは瞬時に強い負荷が腰にかかることはありません。その反面、 走っている最中は姿勢を維持するために常に筋は力を発揮し続けるので、一定の緊張が常に腰にかかっています。

姿勢を維持するくらいの筋の緊張なんて大したことないでしょと思うかもしれませんが、とんでもない!「2時間歩く」という状態と「1時間立ちっぱなし」という二つの状態を想像してみてもらえればすぐに分かると思います。どんなに体を鍛えている方でも、1時間ピクリとも動かずに立ち続けることの方が圧倒的にしんどく感じます。

また、フルマラソンを走り終えたえたあと、靴紐を解こうとして前かがみになった瞬間に腰が痛くて曲げられないという経験はありませんか?ランニング中に腰にかかる負担を自覚する場面は案外頻繁にあるものです。

腰痛ランニング

下肢の振り出しの起点になる

下肢をしっかり振り出すために重要なことは「動きの起点」があることです。少しイメージが湧きづらいかもしれませんが、下肢を振り子だと考えるとわかりやすいです。この「振り子(=下肢)」をスムーズに動かすにはどうすれば良いでしょうか?答えは振り子の支点を固定することです。 板のような硬いところに振り子を固定すれば振り子の動きはとても安定します。しかしこんにゃくのような不安定なところに固定してしまうと振り子は安定するどころか逆にぐらついてしまいます。

腰はこの振り子を支える「板」や「こんにゃく」と同じ役目を持っています。腰を中心とした体幹は安定していないとスムーズな下肢の振り出しに支障が出てしまいます。こういったところからも腰部の重要性がわかりますよね。

腰痛ランニング

回転の軸になる

ランニング動作は上半身と下半身がねじれるように動きます。右腕が振出されれば左脚が前に出て、左腕が振出されれば右脚が前に出ます。上下が逆に動くような格好になっているので、どこかにそのねじれの中心が存在するのですが、ランニング動作の場合はそれが「腰」です。

ランニングは前進動作が主ですが、腰の捻転が起きなければスムーズに動くことはできません。腰部の柔らかさはスムーズなランニング動作を行う上でとても大切なポイントになります。腰痛に悩む方の場合はこの捻転動作に問題がある可能性があります。

腰痛ランニング

 

ランニングによって起こる腰痛の原因とケア

腰部の痛みの原因は体が正しく使えていない時に起きます。上述したように ランニングの場合は大きな負荷ではなくても、継続的に小さな負荷がかかり続けるので、不適切な体の使い方は結果的に大きな負荷になります。そういった意味では「腰のケア=正しい体の使い方を覚える」がカギになります。

腰の緊張感を抜く

ランニングにおいて腰はフォーム維持のために使われます。これは上述の通りですね。

ただ、本来フォームを維持するために使われるはずの腰が、脚を後方に引く「フォロースルー期」で不適切に使われていることがあります。フォロースルー期では脚を後方に引く時に地面をグッと押するのですが、この動きは「腰」ではなく「お尻」が担った方が合理的です。ところが、身体の使い方が「腰優位」になってしまうと、姿勢を維持する時だけでなく、脚を後方に引いて地面を蹴る時も腰がギュと収縮してしまいます。

こういったフォームになっている場合、腰にかかる負担はかなり大きくなってしまいます。また、腰を使っているということは本来使うべき殿部(お尻)が十分に使えていないということにもなるので、腰痛を引き起こすだけでなくランニングの効率も悪くなるのでスピードが上がらなかったり、後半までペースを維持できなかったりします。これじゃぁ、腰が痛くなってしまうのも無理はないですね。

腰痛ランニング

腰が過剰に緊張しているかどうかは、PHEエクササイズ(詳しくは下記動画を参照ください)で確認できます。うつ伏せで膝を曲げた状態を作り、太ももを地面から浮かすように動かすエクササイズなのですが、腰に力が入っていると股関節の前面が浮いてきてしまいます。 正しくはお尻(殿部)に力が入って、太ももだけが地面から浮くはずなのですが、そうなっていない(そういう動きができない)場合は腰が過剰に緊張していると評価されます。

PHEエクササイズはテストでありトレーニングでもあるので、うつ伏せの状態でお尻を使う意識を持って太ももを地面から浮かしていきます。これを日頃からやっていくといいですね。難しくはありませんが、できるかどうかはあなた次第です。。。

腰痛ランニング

 

腰を柔らかく使う

腰は上半身と下半身をつなぐポイントになるので、この部分がなめらかじゃないと腰に過剰な負担がかかってしまいます。 野球やゴルフといったスポーツであれば腰を捻って力を生み出しますが、ランニング(特に長距離)の場合は腰を捻ることによってエネルギーのロスを減らしている意味合いの方が強いです。

腰痛ランニング

腰の筋が硬ければなかなかスムーズなランニング動作にはなりません。また、無駄が多ければ腰への負担も当然大きくなり、怪我にもつながってしまいます。腰がどれだけ柔らかく使えているかは非常に重要なポイントですね。

もう少し突っ込んで話をすると、腰の骨(腰椎)は捻る動きがあまり得意ではありません 腰の骨(腰椎)は胸の骨(胸椎)の動きとセットで考える必要があり、「捻る動き=腰の動き+胸の動き」といった感じになります。トレーニングの際はこのことを念頭に置きながら実施することが重要です。

捻る動作につながるトレーニングはこれまであまり実施されてきませんでしたし、あまり重視もされてきませんでした。ところが、ここ最近のトレンドとして、一見するとランニングのトレーニングとは思われないような動きを取り入れたものがにわかに注目を集めていて、実際に多くのトップ選手もトレーニングの一環として取り入れ始めています。

それを象徴するのがこの動画。

2015年に公開された動画なので少し古い情報になってしまいましたが、オレゴンプロジェクトに所属するゲーレン・ラップ選手のトレーニングの様子が一部公開されていました。ゲーレン・ラップ選手といえば2016年のリオデジャネイロオリンピックのマラソンにおいて3位に入賞したトップアスリート。トラック種目でも非アフリカ系選手ながら2012年のロンドンオリンピックで10000m銀メダルに輝いています。

彼が所属するチームではトレーニングの様子が時々公開されるのですが、その中にアメフトボールを投げあう動き(1 分17秒あたり)や、体を捻って重量のあるボールを投げ返す動き(1分25秒あたり)が紹介されています。この動画はもう4年前のものになりますが、ねじる動きの重要性は彼らも十分認識しているであろうことはここからもわかりますよね。

体を捻るような動きは腰痛予防だけでなく、パフォーマンス向上にも繋がっていきます。上記の動画は一部ですが、普段のトレーニングに捻るという要素を加えるだけでもかなりバリエーションが高まります。細かい動きはたくさんあるあるので、今後少しずつ紹介していきますね。

腰を固めて使う

前後で矛盾するような書き方をしますが、決して真逆の事をいうわけではありません。柔らかく使うことも固めて使うことも両方できた方がいいですし、それを強調するためにあえて並べて書きました。上で紹介した振り子の図をもう一度イメージしてみてください。下肢をスムーズに振り出すために重要なことは、体幹をしっかり固められることです。特に両足が空中に浮いた瞬間は体幹を固められていないといないと脚をスムーズに前へ運ぶことができません。

腰痛ランニング

体幹を固めて脚を動かすというトレーニングは、これまでも比較的積極的に行われてきている印象を受けます。ただし、それがどういう意味を持って何を目的にして行われているかを理解していないと効果的なトレーニングにはなりません。十分に理解したうえで行うようにしてください。今回はバランスボールを使ったトレーニングを紹介します。「固めるトレーニング」はもちろんこれだけではないですが、色々あるトレーニングの意味と効果を是非考えてみてください。

 

ランニングと腰痛に関するまとめ

腰痛は「広くて深い」と言う表現を冒頭にさせてもらいましたが、本当にその通りです。身近な症状でありながら、理解は不十分で、個人差も大きいです。最終的には個別評価していくことが最も大事なので、一般論貸しづらいのですが、大まかに整理してみたので腰痛に悩む方は是非チェックしてみてください。

僕もこれまでいろんな「腰痛」をみてきました。良い記憶も苦い経験もたくさんあります。トレーナーで現場に出ればまだまだ未熟だなと思うことの方が多いですし、その度にもっと頑張ろうと思い直し、いろんなことを考えます。これまでたくさんのトレーナーや治療家が経験してきたものを文字にして残したり、口頭で伝えたりしながら今に至ってます。そういった知恵を集めてより良い情報バンクができるのがいいですよね。

誰もが痛みなく、そして不安なく走ったり動いたりできるような情報の周知が望まれますね。

June 30, 2019/怪我・故障/