スポーツの秋!先日行われたMGCやドーハで行われている世界選手権を見て刺激をもらった方もいるのではないでしょうか?
速く走るためには正しいトレーニングが大切!ランニングを継続していくだけも記録が伸び、楽に走れるようになっていきますが、実は、それだけでは不十分なのです。特に、ベテランランナーになればなるほど、伸び悩みに直面することがあります。こんなに頑張ってるのになんで記録が伸びないの?怪我をしちゃうの?というお悩みは私もよく相談を受けます。
速く走れるようになるためには、トレーニング以外の要素も大切です。「きちんと休養は取れているか?」「トレーニングの量と強度は適切か?」などは非常に重要な要素になりますが、私が口を酸っぱくしてみなさんに確認しているのことは「トレーニングで消耗した体を食事で回復させられているか?」ということです。つまり、ランニングの疲労回復を促し、次のランニングの質を上げてくれる”リカバリー食”がちゃんと摂れているかどうかを見ていく必要があります。
なぜ、リカバリー食がパフォーマンス向上に繋がるのか?どんなことに気をつけたらいいのか?筋肉を作るためのだけではない、リカバリー食の役割について解説していきます。
Contents
リカバリー食がなぜ大切なのか?
継続があって成長する。しかし、疲労の蓄積が伴う
インターバル走、距離走など1回のトレーニングで、ペースが何十秒も飛躍的に成長したことはありますか?通常はそんなことはないですよね。
ランニングに限らず、多くのスポーツで1つの要素の運動パフォーマンス(持久力・筋力など)を向上させるには数週間~数か月という長い期間、トレーニングの継続が必要になります。その期間、トレーニングの継続に伴って疲労も蓄積してきます。その際に適切なリカバリーが行われると1回1回の練習の質がより高まり、パフォーマンスがより向上しやすくなります。逆にリカバリーが疎かになった場合、練習による疲労が塵積って山となり、練習の走りが悪くなってしまいます。かといって、「リカバリーだから」とダラダラと休んでいては、前回の練習で得た成長がなくなってしまいます。これでは意味がありません。つまり、前回の練習で得た成長が損なわれない適切なタイミングで次の練習を行い、かつその練習の質を最大限に上げていくことが質のよい練習サイクルになってきます。
そのサイクルを継続していくためには、疲労を残さないように適切なリカバリー手法を取り入れることが必要になります。そのリカバリー手法の1つが”リカバリー食”なのです。
思いっ切り頑張れるから成長できる
リカバリーが適切に行われていない。練習の間隔(リカバリー期間)が短い。これらにより疲労が溜まったまま練習を行ったとしても、潜在的な力を最大限レベルに発揮することはできません。
トレーニングをする際、大事な原則の1つとして『過負荷の原則』というものがあります。自分自身が持つ体力要素に過度な負荷をかけることにより、体の適応、つまり成長を引き出すことができるという原則です。
トレーニングの際に出せるパフォーマンスがより高いほど、負荷も大きくなります。しかし、疲労が蓄積した状態でトレーニングを行うとパフォーマンスは低くなってしまい、持っている体力要素の限界に及ばない負荷になってしまう。これでは負荷が足りないため、成長が促されません。
疲労の蓄積をなるべく早く抜いてあげることで、前回のトレーニングで向上したパフォーマンスが残った状態で次のトレーニングに臨め、質の良い=負荷の高い練習が可能になります。このサイクルの継続によって、本当のパフォーマンス向上が目指せるようになります。リカバリー食はこのランニングサイクルを作り上げていくために、必要不可欠な“トレーニング”の1つなのです。
ただ食べればよい訳ではない
「じゃあ、リカバリーのためにがつがつとたくさん栄養を摂ればOKですね!」
という訳ではなく、リカバリー食と言っても食べ過ぎてしまえばオーバーカロリーで余計な脂肪がついてしまいます。また、消化吸収への負担等で健康面でもマイナスになってしまいます。少なからず、ランニングを行う理由に『健康のため』ということは頭の片隅にあると思います。体を壊してからでは、手遅れになっていることも。困るのは自分だけではありません。
では、”リカバリー食”とはどんな食事方法なのか?運動後のリカバリーのために
- Who:誰が
- What:どの栄養素を
- When:いつ
- Where:どこで
- Why:なぜ
- How:どのように
- How many:どれくらい
食べると良いのか?といった視点でこの後、解説をしていきます。しっかりと把握し、実践できるようにしていきましょう!
リカバリー食とは?
走った直後だけでなく、次の日の食事まで
走ることによってパフォーマンスが上がる。その変化は、走り終えた直後から始まっています。
運動直後は体内ではエネルギー不足や老廃物・熱の蓄積によって“緊急事態”が起こっています。ヒトの身体は、またこの”緊急事態”が起こっても回避・耐え抜けられるよう、身体の仕組みをパワーアップさせます。パワーアップの度合いは刺激が加わった運動直後に近いほど大きく、なるべく早い段階でリカバリー食を取ることが効果的になります。そのリカバリー食ではパワーアップに必要な栄養素など補ったり、阻害要因になる老廃物や熱の排出を促すことが必要になります。
このパワーアップは運動直後に近いほど大きいといいましたが、統計的には運動24時間後までに継続するとされています。運動48時間後まで継続するという報告もありますが、運動後翌3食はリカバリーを意識した食事をすることがパワーアップにつながる重要なタイミングでであります。
そのリカバリー食の中でも、特に意識して欲しい栄養素が3つあります。その3つをどのように摂れば良いかチェックしてみましょう。
➀栄養素を運ぶ水分
水がなくては、酸素も栄養素も運ばれない。水は体内でのインフラとしての役割を果たす、とても重要なものです。
ランニング中の発汗などによって、体内の水分量は減っていきます。走っている最中の水分補給だけでなく、走った後もしっかりと補給ことにより、通常の水分量に戻していきます。それにより、酸素や栄養素、熱、老廃物などのスムーズな運搬が可能になります。
水分は運動後の体重減少量に対して、125~150%の量を取りましょう。25~50%の余剰分は、運動後の代謝亢進を補う分に相当します。例えば、体重60kgの方が走った後の体重減少(=脱水量)が0.6㎏(体重減少率1%)の場合、0.6㎏に対する125~150%が適切な水分補給量になります。計算すると0.75~0.9Lになります。この量は走った後の体重減少量によって変動します。また、運動前~中の水分補給とは別になります(これに関しては水分補給の記事をご覧ください)。運動前~中に適切な水分補給ができて、この体重減少が最小限に抑えられていることが理想的ですね。
②修復材料のたんぱく質
たんぱく質は、運動によってダメージを受けた筋肉繊維やエネルギーを生み出すサポートをする代謝酵素の材料になります。筋肉などのたんぱく質は通常、最も細かな単位のアミノ酸に1つ1つ分解されても、また再利用されて筋肉に戻ることができます。しかし、一部はエネルギーの材料として燃やされたりしてしまうため、毎食一定量のたんぱく質を摂取することが筋肉量・機能の維持に貢献してきます。
運動をすれば、エネルギーとしてたんぱく質(アミノ酸)が使われる量が増えます。運動後には1日(3食)のたんぱく質の量を、通常よりも1.5倍前後(~1.8g/㎏体重/日)増やすとリカバリー食として効果的になります。また、運動後なるべく早い段階の方が筋肉でのたんぱく質合成(パワーアップ)に有利になるため、次の食事までの運動直後(なるべく早く)にもリカバリー食を付け足すことも効果的な方法です。その際には、たんぱく質の量を20~30g(0.25~0.3g/kg体重)が摂れる食事がリカバリーを最適化してくれます。
しかし、先述した通り身体が「パワーアップしないと!」と感知するほど運動負荷が無いと付け足す必要が生れないため、まずは練習で”思い切って頑張っている”が大前提になります。ゆっくり、かつ時間が比較的短いジョギングのように、走り終わってもまだまだ余裕の場合は必要量が少ないため、日頃からたんぱく質を摂り過ぎないようもしましょう。
③修復を促す糖質
糖質は体内(血液中)に吸収されると血糖として各組織のエネルギー源になります。血糖値が上がると元の濃度戻そうとして、膵臓からインスリンを分泌させて血糖値を下げさせます。インスリンは血液から各組織(筋肉など)への血糖の入口を大きく広げる作用があるため、食事によって多くなった血糖をどんどんと各組織に流し込んで血糖値を下げていきます。
その際、血中に流れているたんぱく質も一緒に各組織(筋肉など)に流れ込んでいきます。つまり、インスリンが分泌することで血糖(糖質)だけでなく、たんぱく質も筋肉へのうまく吸収されるようになります。
たんぱく質単体で摂取しても血糖値は上がらないため、インスリンは分泌されません。そのため、運動後のリカバリー食としてたんぱく質だけでなく、糖質も一緒に取ることでこの相乗効果を生み出すことが可能になります。実際には運動直後のたんぱく質摂取と一緒に、おにぎり1個を取ると相乗効果を生むことができます。
リラックスして、食べ過ぎないようにしよう
運動直後が良いとはいえ、走り終わって興奮したまま状態では胃腸内での消化吸収がうまく働かない。消化吸収はリラックスした状態になると副交感神経によって働きが良くなる。そのため、走った後に慌てて準備したリカバリー食急いで食べたとしても、身体(血液内)に吸収されない割合が増えてしまう。仕舞には、腸でスルーされて便になってしまいます。また、食べ過ぎも同様です。過剰なたんぱく質摂取は消化不良のたんぱく質が増えるため、糞便の匂いが強くなる原因になります。『食べれば食べる程、パワーアップできる』という訳ではなく、リカバリー食にも上限があるのです。
実際には運動して興奮した身体を落つかせるために、クールダウン・ストレッチをまず行ってからリカバリー食を取ると効果的に消化吸収が進むでしょう。また、通常のお食事の際にも「いただきます」をし、スマホなどに注意散漫にならいようにすることも大切です。食べ過ぎで消化不良になっていないかにも、気を付けてリカバリー食をとりましょう。
ビールは…
「さて、頑張って走ったし、リカバリー食もしっかり食べたから、ご褒美のビールを!」しかし、練習として走った場合は、なるべくその日の飲酒は避けるのが得策です。
リカバリー食をしっかりと取っていたとしても、飲酒をすることでリカバリー効果が約3/4に減ってしまいます。また、水分補給の面でもアルコールに夜利尿作用が勝るため脱水を助長し、栄養素の循環や代謝が滞ってしまいます。頑張って走って、リカバリー食も取ったのに、その努力が水の泡になってしまいかねません。できる限り、練習後の夜のお酒はクッと我慢をして、翌日以降にしましょう。
しかし、本命の大会後であればご褒美として用意していてもいいでしょう。もちろん、直後に飲むのではなく、しっかりとこれまでのようなリカバリー食を取った上で飲むようにしましょう!数か月間、頑張ってきたご褒美で飲むお酒は格別だと思います。
オススメのリカバリー食
リカバリー食がどのようなものなのか、イメージが付きましたでしょうか?簡単にまとめると
運動直後はリラックスしてから水分・たんぱく質・糖質を。そして、その後の3食でたんぱく質を通常の1.5倍前後に増やして取ることです。
もちろん、その他の栄養素(炭水化物、ビタミン、ミネラルなど)もしっかりと摂ることも大事です。全ての栄養素が歯車のようにうまく噛み合うことで、身体の中でのリカバリーがスムーズに進むようになります。
では、これらの栄養素を実際、どのようにチョイスしていけばよいか?オススメの形をご紹介していきます。
基本は料理の形で
リカバリーと言えばサプリメントを思い浮かべる方も多いと思いますが、基本は料理の形で摂ることが大事です。魚や肉、野菜など、1つ1つの食材にはある機能に必要とされる栄養素がバランスよく含まれています。それは食材そのものも、元は生きていたからです。生命活動の基本的な仕組みはどの動植物も似たような仕組みになっているため、その仕組みに必要とされる栄養素がバランスよく含まれています。サプリメントではそれが補いきれないこともあり、また余計にコストがかかってしまいます。
その料理でリカバリー食を取るためにベースとする形は、主食・主菜・副菜を揃えながらタンパク質系食品(魚・肉・卵・大豆製品など)が2品目ある食事です。例えば、魚1切れで約20g弱、納豆1パックで約8gのたんぱく質が摂取できます。また、ご飯や副菜などに含まれるたんぱく質を合わせれば1回の食事で30~40gのたんぱく質を摂取することができます。体重60㎏の方であれば、リカバリーの必要とされるたんぱく質(~36g/食)を補うことができますね。
コンビニ
市民ランナーであれば、帰宅前に走ることが多いでしょう。また出先などで自炊ができない時もあると思います。そのような時に食事を準備する手段になるのがコンビニ。今でもコンビニ食でも十分にバランスの取れた食事を準備することが可能になってきました。
先ほどお伝えしました料理の形式を揃えるために、活用したいのは『お惣菜』です。レンジで温めるだけで美味しい主菜・副菜が用意できるのでこれを軸にチョイスしてもらえるといいですね。家で食事が準備できる場合は、運動直後の補給だけでも、お惣菜などからチョイスできるとGOODです。イートインを活用すると、ゆっくりとバランスの取れた食事がとりやすくなりますね。
具体的には、焼き魚や鶏肉炒め、生姜焼きなどがオススメです。この他にも、サラダチキン・缶詰・ゆで卵がたんぱく質食品として摂ることができます。これらにおにぎり・水分がプラスできるととてもいいですね!
外食
多くの外食では炭水化物過多のメニュー、または脂質が多いメニューになってしまいます。この見極めがとても重要になります。
基本はお盆に乗った定食メニューがある、またはアラカルト方式で好きなものを少しずつ食べられるお店が良いでしょう。そのメニューの中から、先ほどお伝えしたようにたんぱく質系食品が2品目(または多め)に摂れる料理をチョイスしましょう。くれぐれも、たんぱく質だけに目が行き過ぎて、食事としての『主食・主菜・副菜』のバランスが崩れないように気をつけてください。ステーキ・焼肉などは要注意です。
“プロテイン”はピンキリ
今では“プロテイン”が入っていることを推したサプリメント(お菓子)が増えてきました。確かに、リカバリーに必要となはたんぱく質を多く含むので良さそうに見えるが、パフォーマンスアップには余計になるものがあるのも多いものです。
プロテインのようなサプリメントについては、どうしても食事環境が整えられない(遠征先など)、運動直後に家やコンビニなどで食事が取れない場合に限るようにしましょう。サプリメントは栄養バランスに優れているとは限りません。コンタミ(異物混入)などによるドーピングのリスクもあります。選ぶ際には専門家のアドバイスをもらいながら摂るようにすることをお勧めします。
走って食べて、理想のカラダに
多くの方がランニングを辞めてしまう理由の1つが『怪我』です。オーバーユース(使いすぎ)による足底腱膜炎やシンスプリントは代表的なランニング障害ですよね。怪我を予防するには、走る量を減らすか、リカバリーを促すことのどちらかが解決策になります。後者の1つが今回の”リカバリー食”でした。
今回のこのリカバリー食が全てのランナー、スポーツプレーヤーに当てはまるものではありません。その時々によって、最適なリカバリー方法があります。ただ、食事の基本である『主食・主菜・副菜』の揃った食事はリカバリーを最適にするには申し分ないものです。まずは基本を整えられる環境・選択肢を確保する努力をしてから、細かな調整をしていくようにしましょう!そのリカバリー食が取れるようになれば、理想のカラダをすぐそこです!