エナジージェル『徹底解説』!
マラソンレースで活躍する補給食の摂り方の理論と実践

いよいよ、フルマラソンのシーズンインといった様相を呈してきました。この記事をご覧になっているあなたも、これからフルマラソンが控えているのではないでしょうか?

フルマラソンで多くの方が不安になるのは、レース後半、特に30㎞以降の失速だと思います。“30㎞の壁”とも評される所以は、ヒトの生理学的なメカニズムで限界が近いためになります。誰もがこの壁を乗り越え、自分の自己ベストを更新したいものですよね。

そんな時、助け舟となるのが今回お伝えする『エナジージェル』になります。エナジージェルはどんな特徴があるのか?エナジージェルをとるとどのような効果が期待できるのか?エナジージェルをどのように摂っていけばよいのか?を解説していきたいと思います。

 

エナジージェルとは?

あなたはエナジージェルを飲んだことがありますか?初めてマラソンを走る方にはあまり馴染みがないものかもしれませんが、今では多くのランナーが特にフルマラソンなどの長い距離のレースで活用されています。スポーツ量販店ではどれを選べばよいのかわからないほど、多種多様なエナジージェルが販売されています。

エナジージェルはスポーツドリンクよりも多くの糖質を含むドロッとしたジェル状のドリンクになります。ジェル状にしている理由は特に『美味しさと糖分含量のバランス』あると考えられます。糖の甘さは舌の表面にある味蕾と呼ばれる “味のセンサー” に糖の分子が触れることでを含むものを口にした時に感じられます。糖の濃度が高ければ高いほど甘く感じますが、液体よりも固体の形に近づいていくほど感じる甘さが抑えられます。牛乳に砂糖を入れるとあまり美味しくは感じられないかもしれませんが、牛乳寒天やアイスクリームといった固体の形にするとちょうど良い甘さになるものと同じような仕組みになります。エナジージェルはコンパクトな形で多くの糖質を摂るために、ジェル状にして味を調整しているのです。その反面、糖の濃度が高いことを考慮した“摂り方”が必要になってきます。この記事の後半にその摂り方についてお伝えしていきますので、後ほどチェックしていきましょう。

 

エナジージェルの必要性

『筋肉』と『脳』の疲労

走っている時に生じる疲労は大きく2つ場所に分けることがでます。1つは筋肉などで生じる末梢性疲労で、もう1つは脳で生じる中枢性疲労があります。

前者の末梢性疲労では筋肉に含まれるエネルギー源の枯渇疲労物質の蓄積により疲労が生じます。エネルギー源としては主に糖と脂肪がバランスよく使われます。また、物理的な損傷も伴うことで運動するための筋肉の収縮が徐々に難しくなってきます。

中枢性疲労は血糖値の低下や疲労物質の蓄積により疲労が生じます。脳のエネルギー源のほとんどが糖(血糖)になるため、血糖値の低下によって疲労感を呈するようになります。血糖値の低下によって脳が疲労・機能低下に陥ると、筋肉などにつながる神経の伝達効率が低下し、倦怠感や注意散漫になるなどの支障が出てきます。

この両者に共通して疲労発生の原因になるものが『エネルギー源の枯渇』です。

グリコーゲン量の低下が疲労を生む

走る時にエネルギー源となるのは主に糖と脂肪になります。これらのエネルギー源は食事から体内に蓄えられます。ご飯や麺、パンなどの主食に多く含まれる炭水化物は消化管内で一度バラバラに分解され、小腸で最も小さな単糖(グルコースなど)という形で血液中に吸収されます。その糖を“コンパクト”に蓄えておくために、肝臓や筋肉などの細胞内にグリコーゲンとして貯蔵されます。グリコーゲンは肝臓と筋肉(骨格筋)に分けて貯蔵されますが、両者を合わせても多くて2000kcalほどしかありません

フルマラソンでは約3000kcalものエネルギーを消費し、そのエネルギー源は主に糖と脂肪になります。3000kcalの全てが糖という訳ではありませんが、自己ベストペースで走ると70%ほどが糖を材料としてエネルギーを生み出しています。これを計算した場合、3000kcal×70%=2100kcal となるので、フルマラソンでは体内に蓄えられている糖=グリコーゲンとほぼ同じ量を消費することが分かります。一方、脂肪は体重60㎏・体脂肪率20%の方で12㎏、エネルギーに換算すると“フルマラソン36回分”ものになるような無限のエネルギー源を蓄えられています。この脂肪をうまく使って走ることがフルマラソン完走のカギにもなってきますね。

走っている時にも糖は筋肉だけでなく脳にも運ばれて使われます。脳のエネルギー源のほとんどは糖で、肝臓のグリコーゲンからグルコースに血液を通じて脳などに供給されます。しかし、走り続けて糖を使っていくうちに肝臓のグリコーゲンが少なくなり、それに伴って血糖値も低下してきます。すると脳は「このままではまずい!」と感知して、運動を止めさせようと“悪さ”をしてきます。それが先述した中枢性疲労の正体です。この変化は末梢の筋肉内でも同様に起こります。筋肉に蓄えていたグリコーゲンが少しずつ減っていき、疲労感が生まれてきます。これらにより、体内にある2000kcalの糖を使いきる前、つまりフルマラソンの途中から少しずつ疲労感が生まれてきます。その疲労の限界ラインまで踏ん張れるかどうかが、フルマラソンを走り切る難しさの大きな要因になるのです。

対策は『貯める』『節約する』『補給する』

このようにフルマラソンを最後まで走り切るためには、限られた量のグリコーゲンを最後までうまく“コントロール”していくことが大事になります。そこで、フルマラソンをベストパフォーマンスで完走するための方法として、3つのアプローチ方法があります。

1つ目が走る前にグリコーゲン『貯めておく』こと。これは以前にもお伝えしたカーボローディング(グリコーゲンローディング)がグリコーゲンを貯めるための方法になります。カーボローディングに細かな理論・方法についてはこちらの記事をご覧下さい。

カーボローディング 『徹底解説』カーボローディングの理論と具体的な実施方法について

2つ目が走る際にグリコーゲンを使う量を『節約する』こと。これは日頃のトレーニングがものを言います。ランニングは酸素を使う有酸素能力と、酸素を使わない無酸素能力によってバランス取りながら走るためのエネルギーを生み出しています。長い距離を走るランニングを継続していくと、酸素を使う有酸素能力が向上していきます。その有酸素運動では主に脂肪を使ったエネルギー代謝になるため、量の限られるグリコーゲンを使う量を比較的抑えることができるようになります。つまり、日頃のトレーニングで有酸素能力を高めていくことと、グリコーゲンの節約、走り切れる距離の向上、強いてはフルマラソンの記録へとつながっていきます。

3ヵ月間の持久運動の継続により、同じ強度の運動で約30%のグリコーゲンが節約できるようになる報告もあります。実際にどのようなトレーニングを行っていけばよいかは、こちらの記事をチェックしてみてください。

マラソントレーニングの基礎は走り込みにあり!「有酸素能力向上」の理論と実践

3つ目がグリコーゲンの原材料でもある糖を『補給する』ことです。これが今回お伝えしたいエナジージェルの役割になります。エナジージェルは主に糖を摂取するために、各社様々な工夫を凝らして設計されています。このエナジージェルをフルマラソンの途中で補給することで、2000kcalだったグリコーゲンの限界値を上げるように補うことができるようになります。

エナジージェルが必要になる=パフォーマンス向上効果が期待できるのは『90分以上、高強度(自己ベストペース相当)』のランニング時になります。10㎞などの短い距離や、ジョギングペースでのランニングであればエナジージェルを摂る必要性はあまりありません。ハーフマラソンやフルマラソンなど、長い距離のレースになると身体に貯蔵してあるエネルギーが足りなくなってしまうことがあります。そこでランニング中にエナジージェルを補給することで、最後までペースダウンせずに走り切る可能性が高まってきます。

また、エナジージェルに限らず水分補給でも糖を補給する可能です。こちらも是非チェックしておきましょう!

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エナジージェルの摂り方

では、実際にどのようにエナジージェルを活用していけばよいかを確認していきましょう。

補給にも限界がある

「エネルギーが足りないなら、たくさん補給すればいいじゃん!!」、という訳にはいかないのです。

また、運動中は神経の興奮や血液分布(運動中は筋肉に多くの血液が集まる)の影響で、食欲や胃腸の働きが低下しています。そのため、走っているために単純に食事を取る(ごはんやパンなどのを食べる)ことが難しいだけでなく、生理的にも栄養素を摂ることが難しくなります。

このような点を配慮し、現在の国際的な声明では、比較的高強度で90分以上継続して動く時、1時間につき30~60gの糖質摂取が推奨されています。これ以上の量を摂っても体内に吸収できません。吸収されずに胃腸内に残ってしまうと腹痛が起こることもあります。それ故、たくさん補給すればよいという訳ではないのです。

多くのエナジージェルは1個当たりの炭水化物含量が30g前後とちょうどいい量に設計されています。給水所でのスポーツドリンクなどの補給の有無も鑑みれば、エナジージェルは1時間毎に1つが摂取タイミングの目安になるでしょう。もちろん、全てのエナジージェルとは言い切れませんので、必ず成分表を確認してどれくらいのペースで補給すれば良いかを確かめましょう。

できれば “ちびちび” と

多くのエナジージェルの形は口を開けたら閉められない『飲み切りタイプ』になります。エナジージェルは『1時間に消化吸収できる量』を考えて設計されているため、数分レベルで全量を飲むと消化吸収が追い付かないこともあります。そのため、可能であれば “ちびちび”と少しずつ飲むことで、多少なりとも胃腸内での不快感は軽減できます(筆者の経験談)。

飲み切りタイプのジェルであれば、口を折りたたんで手でしばらく持ちながら走るのが1つの方法です。キャップタイプであれば、飲んでからまたポケットなどに入れて走ることもできますね。

量は同じでも原料が違うものも

1時間当たりの糖質摂取の推奨量が30~60gということを考えると、どの製品も変わりがないように見えます。

ただ、その炭水化物の原料には製品ごとに違いがみられます。比較的多くの製品は、浸透圧が低く抑えられる分子量の大きいマルトデキストリンを使用されています。浸透圧の低下により胃から腸への移動速度の低下が抑えられ、かつデキストリンからグルコースへの消化を要する為に血糖値の急上昇が抑えられるメリットがあります。

また、グルコースとの相乗効果を利用して果糖(フルクトース)を使っているものもあります。腸から血液への吸収はグルコースとフルクトースで “別ルート” を利用するため、2種類を同時に摂取すことでより多くの糖を補給することが期待できます。果糖としてだけでなく、グルコースと果糖が結合した砂糖(ショ糖)でも同様の効果が期待できます。

消化吸収の強さは個人差が大きいものです。走りながらパンなどを食べてもへっちゃらな方もいれば、そうでない方もいます。私は後者になるので、度々エナジージェルの ”負の恩恵” を貰っています。。。このような材料レベルまでに目を通して頂くと、より良いエナジージェルの補給ができると思います。様々な製品を練習時などに試してみて下さい。

+α の効果にも期待?

エナジージェルには糖以外にも様々な成分を混ぜて、製品の特長を作り出しています。これを1つの選択材料とするのもオススメです。

比較的多くの製品で使わている成分を上げると、糖の節約効果が期待されるクエン酸、汗による損失を補うためのマグネシウムなどのミネラル成分、エネルギー源や疲労軽減効果が期待されるBCAA(分岐鎖アミノ酸)があります。

その中でも、最近エナジージェルでも使われるようになってきたものが『カフェイン』。コーヒーやエナジードリンクでお馴染みのカフェインですが、実はカフェインはパフォーマンス向上が期待できるサプリメント(エルゴジェニックエイド)の中で、最も信頼性の高いグレードに評価されています。とは言え、カフェインの摂り過ぎによるマイナス効果もありますので、各社の推奨摂取方法に遵守しながら摂るようにしましょう。

 

レースは “準備” から始まっている

エナジージェルは様々なことを頭に入れて補給する必要があります。必要だと思う数を揃えたとしても、実際に持ってみたらかさ張る時もあります。特にスピードを要するランナーの場合、ランニングフォームに影響しないようなるべく必要最小限の数・大きさで持ち合わせたいものです。また、飲んでみて口に合わなかったら意味がありません。マラソンは“気持ち”の面でもいかにいい状態を保てるかが関わってきます。

レース当日だけ活用するにはリスクがあります。自分の体に合っているか?持っていて邪魔にならないか?味は美味しいか?など、費用は掛かってしまいますが、本番レース前に是非1度試してみてください。

最後にエナジージェルなど、ランニング中に補給したものは “ポイ捨て” せずに所定のゴミ箱に入れる努力をしましょう。もしその時にない場合は、しばらくポケットに閉まっておいたりして次のゴミ箱で捨てるようにしましょう。昨今の台風の影響で “ランニングができるありがたさ” を実感された方も多いのではないでしょうか?私たち走る側も、支えてくれる方に配慮したランニング文化を作っていきましょう!

November 3, 2019/栄養・サプリメント/