マラソンのエネルギー補給のためにエナジージェルを買われると思います。たくさんの種類や成分があって、それぞれの違いがわかりにくいかと思います。その製品からどんな効果が期待できるのか、どんな摂り方が最適かご存知でしょうか?今回は管理栄養士ランナーとしての専門的な目線でエナジージェルの活用方法を実際の製品と比較します。
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エナジージェルを再確認
前回の記事ではエナジージェルの総論として「なぜ、必要となるのか?」「どのように摂ると効果的なのか?」といった内容をお伝え致しました。その再確認として、以下のように要点をまとめます。
✓”エナジージェルは糖質を多く含むドロッとしたジェル状のドリンク”
✓”体内のグリコーゲン量の低下が疲労を生む”
✓“90分以上、かつ高強度(自己ベストペース相当)のランニング時の摂取が効果的”
✓“エナジージェルは1時間毎に1つ、ちびちびと飲む”
詳細については是非記事の方もご覧下さい。この仕組みを理解しておくことで、たくさんあるエナジージェルをどのように選び、摂ればよいのかが分かってきます。
『ジェル』と『ゼリー』の違い
エナジージェルを選ぶ際、パッと見て2つに区別できる目安が1つあります。そのポイントは『名前』に隠れています。各製品の名前に『ジェル』と書かれているのか?、それとも『ゼリー』と書かれているか?この名前の違いが、中身を大きく分ける目安になります。
『ジェル』タイプは糖濃度が『高い』
”エナジージェル” とラベルに大きく書いてあるものは、この『ジェル』タイプに属します。先述のように、エナジージェルは糖濃度が高く、ドロッとしたドリンク(液体)になります。多くのものは糖濃度を高くして水分量を抑えることで、ジェルのサイズを小さくしています。それにより、ポケットなどに入れて持ち運びやすくなることがメリットの1つです。
ただ、全てのジェルで糖濃度が高いという訳ではありません。中には、ジェルの補給目的が糖分の補給ではないものもあるので、各製品の違いは後ほどチェックしていきましょう。
『ゼリー』タイプは糖濃度が『低い』
自分ではエナジージェルとして買った「つもり」だったものが、実は『ゼリー』タイプの場合もあります。コンビニなどで販売されているエネルギー補給目的の ”ジェル” は、多くがこのゼリータイプになります。ジェルと同じように糖分を中心としたエネルギー補給を目的として設計されていますが、ジェルと比較して糖濃度が低いものが多いです。そのため胃腸への消化負担が軽減でき、ジェルに比べてスッキリと飲むことができます。
また、多くのゼリーはサイズが大きいことも特徴です。それを考慮した活用方法もこの後ご紹介致します。
エナジージェルの比較と活用法
今回は都内の大手スポーツ用品店・コンビニエンスストアで販売されている製品をピックアップし、管理栄養士ランナーとしての目線で各製品の比較をしていきます。対象とする製品は以下のものとし、掲載する順序は製品名の五十音順で並べています。
- アミノバイタル パーフェクトエネルギー ゼリードリンク
- アミノバイタル アミノショット 各2種
- inゼリー 各9種
- WINZONE ENERGY GEL 各4種
- スポーツようかん 各2種
- shotzエナジージェル 各7種
- パワーエイド 各2種
- PIT INエナジージェル 各3種
- PIT INエナジーゼリー
- Mag-on エナジージェル 各6種
- MEDALIST ENERGY GEL 各4種
- MAURTEN GEL 100
これらの中にはゼリータイプのものもありますが、今回は同じような利用目的のため “エナジージェル” としてそれらも扱っていきます。なお、今回調査したのは2019年11月末になります。各製品、改良により栄養成分が異なってくる場合もありますので、参考にされる際はご注意下さい。
携帯するなら『ジェル』
多くのジェルは60~70%の高い割合を炭水化物が占めています。糖濃度が高いことで、エナジージェルの役割の1つであるエネルギー補給の利点が増えます。走っている時に大きなものを持つことは ”余計な重り” を持って走るようなものです。糖濃度が高いジェルであれば、コンパクトでありながらもより多くの炭水化物を適宜補給することが可能になります。そのため、フルマラソンのような炭水化物の必要性が大きくなるレースでは、このジェルタイプを携帯して走ることが適しています。
ピックアップした製品の中からジェルに該当するものを選び、炭水化物の重量比(炭水化物量/内容量)で並べると以下のようになります。
- Mag-on エナジージェル 各6種 : 73.2%(30.0g/41.0g)
- WINZONE ENERGY GEL 各4種 : 平均72.4%(28.9g/40.0g)
- shotzエナジージェル 各7種 : 66.3%(29.8g/45.0g)
- MAURTENGEL 100 : 62.5%(25.0g/40.0g)
- PIT INエナジージェル 各3種 : 62.0%(42.8g/69.0g)
- MEDALISTENERGY GEL 各4種 : 平均58.7%(26.4g/45.0g)
これらはコンパクトさが売りではありますが、1つ注意が必要なことがあります。エナジージェルは糖濃度が高いため、比較的薄いスポーツドリンクに比べて小腸での吸収に時間を要してしまいます。摂取量が多くなり消化吸収ができないと、その先の大腸で下痢・腹部の膨満感・腹痛を起こす可能性が高まります。このようなこともあり、運動中の糖質摂取の上限量は30~60gと推奨されています。レースでは普段よりもスピードが速かったり、緊張でいつも以上に吸収がうまくいかないことも考えられます。ジェルの活用を予定している場合は、練習・プレ大会などで慎重に試すようにしましょう。
レース直前には『ゼリー』
ジェルタイプではない『ゼリー』タイプのものもいくつかあります。ピックアップした製品の中ではinゼリーやPIT IN エナジーゼリー、パワーエイドがゼリータイプになります。難点としてはサイズが大きいことです。走りながら持ち運ぶにはかさ張ってしまい、揺れて煩わしい感じがするかもしれません。また、ゼリー状の半固形でもあるため、運動中に摂取するとむせてしまうリスクもあります。それ所以でしょうか、ほとんどのゼリータイプでは運動前など、動いていない時の摂取を推奨しています。
これらの点やエネルギー代謝などの様々な要点を踏まえると、ハーフ・フルマラソンのスタート直前(10分前)の補給として ”ゼリータイプのエナジージェル” を用いることがよいでしょう。また、ロングトレイルやウルトラマラソンなど、途中の休憩所などでピックアップができるレースではゼリーも選択肢の1つとしてもいいでしょう。比較的糖濃度が薄いゼリーであれば、胃腸トラブルのリスクを多少は低くしながらエネルギー補給ができるかもしれません。
アミノ酸を活用する
エネルギーになるのは炭水化物だけではありません。疲労状態が大きくなると、炭水化物だけでなくアミノ酸のエネルギー需要も高まってきます。その際、特にエネルギーになりやすいアミノ酸がBCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)になります。アミノ酸の摂取では直接的な血糖値への影響がないため、他のエネルギージェルとは違ったアプローチが可能になります。エネルギージェルの中でもこのアミノ酸の補給ができるのが、アミノバイタルになります。
アミノバイタルはゼリータイプのパーフェクトエネルギー ゼリードリンクとジェルタイプのアミノショット(アミノショットでの2種類)の2パターンがあります。アミノバイタルのアミノショットはジェル状をしてますが、糖濃度の低いジェルです。これは炭水化物が1個当たり2.6gと少なく、エネルギーとして使われやすいBCAAを始めとしたアミノ酸が数種類入っています。
他の製品にはアミノ酸を多く含むものがあまりないので、運動中にアミノ酸補給したい場合はアミノバイタルを選ぶといいですね。
持久力をサポートするカフェイン入りジェル
エネルギージェルに入っていたとしても、有効性が期待できる成分でなければあまり意味がありません。国際的なレビューの3段階評価で最も高いグレードに位置する成分の1つとして、カフェインがあります。鎮痛作用を持つアデノシンと同じような形をするため、作用も似たように疲労を和らげる効果が期待されています。疲労が和らげられることで、持久力の向上見込まれるという仕組みになっています。そのカフェインを添加しているエナジージェルは以下4つになります。
- shotzエナジージェル カフェイン入り : 80㎎
- MEDALISTENERGY GEL COFFEE & HONEY : 50㎎
- Mag-on エナジージェル La France/Lemon/Pink Grapefruit Flavor : 25㎎
- PIT INエナジージェル 栄養ドリンク風味 : 25㎎
カフェインは効果の期待が大きい反面、摂り過ぎによる悪影響もある成分です。日本における明確な摂取基準は個人差が大きいため設定はされておりませんが、厚生労働省・農林水産省では注意喚起がされています。世界の他の国や団体では1日200~400㎎以下なら問題ないと報告しています。摂取量の線引きは人それぞれ異なりますので、是非ご参考にしてもらえればと思います。
脱水・痙攣予防のために
近年では運動中の脱水だけでなく、塩分などの電解質摂取が不足した水分の過剰摂取(低ナトリウム血症)も問題視されています。特にエネルギーだけでなく水分補給が重要となる暑い時期のレースでは、この対策も重要になります。
ザバスのPIT IN エナジージェルは食塩(ナトリウム)をその他のエナジージェルよりも1.5~2倍多く含む(0.6g/個)ため、発汗量が多い方や暑い時期のレースの補給食としていいでしょう。また、ピットインはミネラルだけでなくビタミンB群・Cも入っていることが嬉しいもう1つのポイントですね。
痙攣と関わりが深いマグネシウムを含んだエナジージェルもあります。Mag-onのエナジージェル、WINZONE ENERGY GELには他製品より最も多い50㎎/個を配合しています。Mag-onに含まれるマグネシウムは、水溶性マグネシウムと呼ばれる体内への吸収力の高いマグネシウムを使用しています。WINZONEにもマグネシウムが含まれますが、通常のクエン酸と働きが異なるヒドロキシクエン酸も加えて配合しています。これは脂肪の分解を促す特徴があり、持久力をサポートする期待がされています。
各栄養成分の必要性は人それぞれになります。汗かきで脱水が心配の方、よく脚が攣る方、レース後半のガス欠が心配な方。その優先順位をつけながら、どのジェルを使用するのが良いのか比較してみてみましょう。
お手軽にエネルギー補給するなら
ここまで機能性の面でエナジージェルを比較してきましたが、値段の面も気になると思います。機能性を重視すれば、自ずとコストもかかるため値段も高なってしまいます。
その中でもより手軽にエネルギーを補給したい時に助かるのが、井村屋のスポーツようかんです。多くのエナジージェルの値段は1つ200~300円となりますが、スポーツようかんは1つ100円程度とお買い得です。摂取できるエネルギー・炭水化物量が少ない訳でもなく、他の製品と同等の量を摂ることができます。
あずきとカカオ味の2種類がありますがカカオ味の方は脂質が少し含まれますので、味の好みを含めてどちらかを選んで頂くとよいと思います。
食事があって、補給が役立つ
エナジージェルで炭水化物などエネルギーの材料を補給できたとしても、しっかりと身体が燃やせる状態ないと “宝の持ち腐れ” になってしまいます。宝どころか、脂肪という “厄介者” として残ってしまいかねません。
炭水化物などをエネルギーに変えるためには、主にビタミンB群が必要となります。ビタミンB群は肉・魚・卵・全粒穀物などに含まれます。フルマラソンの前にグリコーゲンローディングをされる方が多いと思いますが、ご飯などの主食だけではいけない所以は1つ、このビタミン摂取にあります。一部のエネルギージェルにビタミンB群を含んでいるものもありますが、多くのサプリメントは万能でありません。バランスの良い食事は常に心掛けるようにしましょう。