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レース週のカーボローディング完全ガイド【管理栄養士現役ランナー監修】

「大会前のカーボローディングでたくさん食べるぞ~!」
「でも、本当に効果があるの?」
「そもそも、この食べ物、やり方であっているの?」

今では多く方が知るようになった『カーボローディング(=グリコーゲンローディング)』ですが、今一度その詳細を確かめてみてはいかがでしょうか?

・ただ、炭水化物たっぷりの食事を食べるだけではない!
・タイミングを考えることも大切!
・“速く”なるわけではない!

最新レビューに載る論文と、管理栄養士で現役のランナーでもある私(佐原)の実践経験を交えながら、カーボローディングについて解説していきたいと思います。詳しい自己紹介はこちら(UNITED STYLE)をご覧ください

カーボローディングとは

カーボローディングとは、体内に溜め込まれるグリコーゲンの量を通常よりも増やす特別な食事方法のことです。

そもそも、脚や手などを動かすためにはエネルギーが必要ですが、そのエネルギーは『脂肪』や『炭水化物』を原料にして作られます。この辺りは皆さんもよくご存知のお話ですよね。脂肪や炭水化物は食物から摂取するのですが、エネルギーに変換されなかったものはいくつかの過程を経て体内に貯蔵されます。『脂肪』は主に皮膚の下や内臓にへばりつく形で、『炭水化物』は肝臓や筋肉にグリコーゲンという形で貯蔵され、必要に応じてそこから少しずつ取り出されていくので、多少の空腹や数日の飢餓状態でも動けなくなるということはありません。いまでこそ日本では食料が安定的に供給されますが、そう遠くはない昔ですら食べ物が確実に手に入らない時代もありました。その頃の名残もあるでしょうね。

また、人間は状況に応じて脂肪や炭水化物を使い分けることができる体のつくりをしています。脂肪だけを使うとか、炭水化物だけを使うということは基本的にはなくて、体を動かす運動強度によってその配分が変わってきます。言うなれば”ハイブリット形式”であり、その時々において最適な配分を選んでいます。普段のPC作業や会話が普通にできるジョギングといった低い強度では脂質の配分が多くなり、ハーフマラソンやフルマラソンといった比較的スピードが速く(強度が高く)、かつ長時間動く場合は、炭水化物が多くなるということです 

フルマラソンやハーフマラソンのようにある程度の運動強度で長時間走る場合は、炭水化物(グリコーゲン)を大量に消費します。ところが、炭水化物(グリコーゲン)の通常の貯蔵量では、フルマラソンを全力で走り切るには不十分です。カーボローディングを行う事で、体内のグリコーゲン貯蔵量を通常よりも増やすことができるため、ハーフマラソンやフルマラソンでバテるまでの時間・距離を長くすることができます。言うなれば”バテ予防”のための食事方法であり、それによってより良いパフォーマンス・結果につながっていきます。

カーボローディング 脂質と糖質のバランス

カーボローディングのメリット

より長く走れるようになる

10㎞前後の比較的短い距離では、日常的に体内に貯蔵されるグリコーゲン量でも十分に最後まで走り切れます。しかし、ハーフマラソンやフルマラソンといった長い距離で自己ベストを狙うペースになると、通常のグリコーゲン量では十分ではありません。レースの途中で補給したり、当日の朝にたくさん食べると言う方法もなくはないのですが、胃腸にかかる負担は大きくあまり賢明な方法とは言えません。カーボローディングをしっかり行う事で体内にグリコーゲンを溜めることができるので、私はその方法をオススメしたいと思っています。

正しくカーボローディングを行う事で、体内のグリコーゲン量は通常よりも約1.5~2.5倍に増えます。車のガソリンがいつもよりも+αで追加されるようなものですね。それによって普段よりも長く走れるようになりますし、記録の向上にもつながります 。

怪我の防止・再発予防になる

沿道でマラソンの応援をしていると、エネルギーが切れて後半バテバテになりながら走るランナーを多くみかけます。苦しい中でも懸命に走る姿は美しくもあるのですが、実際にはフォームが崩れてバタバタ走っていることは明白です。無理な走行は体に負担がかかり怪我につながることは少なくありません。マラソンを走った後に筋肉痛じゃない痛みが出るのはこういったことが原因になっていることは結構あります。

カーボローディングを行うことで、最後までフォームを崩すことなく走ることができれば、結果的に怪我の防止や再発予防にもなります。体内のエネルギー的な問題だけでなく、物理的なダメージを減らすということにもつながるため、カーボローディングは足底腱膜炎腸脛靱帯炎などランナーに頻発しやすい怪我の予防にも繋がっているといえます。

長い期間かけてトレーニングを積み重ねてきても、食事面でミスしてしまえばせっかくのトレーニングの成果も発揮できません。カーボローディングを上手に行うことで様々なメリットが期待できるので、それはとても大きな魅力ですよね!

カーボローディングのデメリット

その一方で、カーボローディングにはデメリットもあります。通常の食事と異なる食事内容となるため、人によってはデメリットの方が大きくなることもありるので、こちらもチェックしておきましょう。

体が“重たく”感じる

カーボローディングは通常のグリコーゲン量より多く増やすため、もちろん体重が増加します。

グリコーゲンは1g当たり、2.6~2.7gの水分と一緒に肝臓・筋肉内に貯蔵されるようになります 。そのため、カーボローディングをすると体重が1.0㎏~1.5㎏増加します。この増加による体の“重たさ”により、パフォーマンスにどう働くかが人によって異なります。

単なる食べ過ぎに

カーボローディングのための高糖質食は、通常のPFCバランス*¹よりも炭水化物の割合が高い食事をすることです。単に炭水化物をたくさん食べるとは意味が異なり、その日の消費/摂取カロリーのバランスを合わせないと、余分なカロリーが体脂肪として蓄えられてしまいます。

また、食事のバランス・食べる量も異なること、レース前の緊張感も相まって、体の消化に合わない・追い付かないことも起きます。レース当日の朝食時までその状態が継続してしまうと、朝食で食べた食事が未消化のまま胃腸に残ってしまい、走行中の腹痛の原因になってしまいます。

これらのデメリットが自分に合うか、クリアできるかどうか?を本命レース前のサブレース等で確かめておくことが大切になります。

カーボローディング

*¹ Protein(タンパク質):Fat(脂質):Carbohydrate(炭水化物) の頭文字をとった、エネルギー源となる栄養素の比率。
通常の食事ではP:F:C=15~20%:20~30%:50~65% 比率になる。高糖質食ではこのバランスをP:F:C=15%前後:15%以下:70%以上にします。

グリコーゲンの種類

肝グリコーゲンと筋グリコーゲン

これまでの解説で出てきた『グリコーゲン』は、体の中では主に肝臓と筋肉の2か所に分かれて貯蔵されます。

食事で摂った炭水化物(糖質)は、胃腸で最も小さな形の単糖(グルコース・果糖など)の形で消化・吸収されて血中に入り、まずは肝臓に向かいます。その肝臓で『肝グリコーゲン』として貯蔵されます。肝グリコーゲンは主に血糖値の維持のために利用されます。貯蔵される量は約400kcalほどで、一晩寝るだけでも40%減少します。

肝臓を抜けた糖は体中の組織、主に筋肉に吸収されて『筋グリコーゲン』として貯蔵されます。筋グリコーゲンはその筋肉を活発に動かす際、特に強度の高い運動時に用いられます。日常の活動量ではあまり使われず、ハーフマラソンやフルマラソンといった比較的強度の高い運動時に多く使われます。

カーボローディングは食事とランニングを調整していくことで、肝グリコーゲン・筋グリコーゲンを通常以上の1.5~2.5倍の量に増やし、30㎞以降の“バテ予防”ができるようになります。

カーボローディング

カーボローディングの一般的なやり方

では、実際にカーボローディングはどのようなやり方をしていけばよいのでしょうか?ステップは大きく分けて3段階あります。それらを1つずつチェックしていきましょう!

【レース7~4日前】 グリコーゲンを減らすランニングを1回行う

実は、ただ高糖質食を食べるだけではグリコーゲンローディングは起こり得ないのです!

高糖質食を食べるだけでなく、食べる前に『消費させる』ことがグリコーゲンを貯めるために必要なのです。

片足のみ運動を行った後、3日間の高糖質食を摂取すると、運動を行った脚のみにグリコーゲンが通常より多く貯まるようになる研究があり、運動がグリコーゲンを貯め込むためのスイッチになるのです。

また、そのスイッチを押すためにもある程度の力が必要で、一定量のグリコーゲンを消費するような少しハードなランニングが適当になります。そうすると、「グリコーゲンが少なくなったから貯めないと!」というスイッチが入り、通常以上のグリコーゲンを貯め込められるようになります。

実際にどのようなランニングを行えばよいかというと、レースのペースと同等、又はそれよりも速いペースで走ることが大事なポイントです。速いペースに(強度が高く)なるほど、エネルギーの材料として脂質よりも炭水化物に比重が高まるため、効率よくグリコーゲンを減らせます。

フルマラソンの場合、レース当日へ疲労を極力残さないために走行距離は長過ぎず、それなりにスピードの出せる10㎞前後のペース走』がオススメのランニングです。これを行うことでグリコーゲンを溜め込むためのスイッチが入ります👆

【レース3~1日前】 高糖質食を食べる+緩いランニング

ペース走などでグリコーゲンを貯めるスイッチを入れたら、残りは炭水化物を貯め込むための食事とランに切り替えていきます。具体的にはレース3日前から1日前にかけて高糖質食を摂ることと、ジョギングの量(時間)を減らしていくことです。

高糖質食とは1日の総エネルギー摂取量の70%以上を糖質(主にデンプン)からとり、脂質の摂取は15%以下、たんぱく質は15%前後の比率を維持する食事とされています。消費/摂取のカロリーバランスをイーブンにしながらも糖質量を増やす必要があり、ポイントは『ご飯は2杯強』と『いかに脂質をカットするか?』になります。食べる量に関しては消費カロリーに個人差があるので断定はできませんが、通常の2倍の主食を食べるイメージを持ってもうとOKです。それに合わせておかずの量を減らし、油っけの少ないおかずをチョイスしてカロリーバランスの調整を行っていきます。油を多く使う揚げ物や炒めもの、ルーを使う料理を少なくすると脂質をカットできます。親子丼や煮魚などの和定食がオススメですね!

また、溜めたグリコーゲンをあまり消費しすぎないよう、また筋肉の疲労、張りを抜いていくためにもランニングの量(距離)は少しずつ減らすことも同時に必要になります。具体的には4020分程の短い時間のジョギングで調整していくことがオススメです。

【レース当日】 朝食は軽く

レース前3日間の高糖質食がしっかり取れれば、残りはレーススタートまでの調整。レース当日の朝食はこれまでの食事とは異なるので注意が必要です。

レース当日の朝は既に筋グリコーゲンは充足している状態ではありますが、肝グリコーゲンは一晩寝るだけでも60%程度まで消費されてしまいます 。その失った肝グリコーゲンを朝食で補います。体重75㎏の方が体重1㎏当たり1.87gのグルコース(糖質)を摂ると、枯渇した肝グリコーゲンを回復させることができる ため、体重1kg当たり1.5~2.0gの糖質摂取が妥当とされます。具体的に、朝食はご飯1膳強やおにぎり2~3ほどでも十分に補えます。おかずはレース中の胃腸トラブルを避けるために、低脂質・食物繊維食、ほどほどのタンパク質食品のメニュー にできると更にいいですね。

また、朝食を食べる時間も消化吸収を完全に済ませた状態にするために、スタート時間の3~4時間前までに食べ終えておくことも大切です。

これで準備OK!朝食を食べた後は特段のことがない限り、補食を取る必要性はありません。むしろ、更に糖質を摂ってしまうと血糖値上昇によるインスリンの影響が残ってしまい、運動中のグリコーゲンを無駄に使われてしまいます。また、スタートまでに補食の消化が間に合わず、走っている間の腹痛の原因にもなります。朝食後はトイレや移動、荷物預けなど、当日の流れをシミュレーションして、イレギュラーにも慌てない準備をしておきましょう!

カーボ(炭水化物)を摂るためのための食材・料理

実際に高糖質食を摂る場合、どのような食事・食材を食べればよいのでしょうか?

・カロリーオバーせずに、効果的に糖質が摂れる
・ビタミン・ミネラルなどの栄養バランスも整えやすいもの
・同じ炭水化物でも“注意が必要な炭水化物”

といった視点を交えながら、具体的に何を食べればよいかをご紹介していきます。

基本は主食から摂る

炭水化物は主に主食・主菜・副菜の『主食』に含まれます。ご飯やパン、麺類が主食に該当する食事になりますが、その中でも『ご飯』を中心に召し上がれることがオススメです。

ご飯のメリットは脂質が少ないため余分な増量を防ぐことがメリットになります。パン食では同じ量の炭水化物をご飯で摂る場合と比較すると、約10倍の量の脂質が含まれるデメリットがあります。また、脂質をカットするためのおかずともご飯食は合わせやすいですね。

パン食の場合、脂質をほとんど含まないフランスパンを選び、トーストして蜂蜜などで召し上がるといいですね。ラーメンはこってりしたものではなく、シンプルな醤油ベースのラーメンがよいでしょう。また、パスタはトマトソースや和風のものですと、脂質を避けられます。蕎麦・うどんは脂質を含まないので糖質を摂りやすい反面、お汁で塩分の取り過ぎにならないように注意しましょう。

サブで根菜類

野菜の中でも土の中で育つ根菜類、炭水化物が比較的多く含まれます。カボチャやニンジン、ジャガイモにサツマイモなどがありますが、炭水化物だけなくビタミン・ミネラルなども同時に摂取できるメリットもあります。高糖質食では糖質・脂質・たんぱく質に注目をしてきましたが、ビタミン・ミネラルも欠かさずに摂ることが必要です。根菜類は食物繊維が多いため、普段以上に食べてしまうとお腹の張りが出ることもあります。普段から召し上がれている方はその量を維持しながら、サブの位置づけとして召し上がりましょう。

焼き・煮もの料理をチョイス

高糖質食では糖質の比率を70%以上にする反面、脂質を減らすことがポイントです。脂質の多い揚げ物や中華料理のような炒め物、またカレーなどルーを使う料理は脂質が多くなるためなるべく少なくする方がいいですね。

脂が落ちる焼き魚や、少量の油の量で済むソテー、煮魚や肉じゃがなどの煮物が脂質少な目のご飯のおかずにピッタリですね。

砂糖(果糖)は筋グリコーゲンになりにくい

高糖質食の説明の際に(  )で記していましたが、カーボローディングで摂る糖質は『デンプン』が主体となります。同じ糖質でも砂糖が多いお菓子をたくさん食べるのはNGです。というのも、砂糖に含まれる果糖が筋グリコーゲンとして貯まりにくいためです 。甘いものや果糖が多い果物は普段と同じように食べ過ぎずに、ご飯などの主食から糖質をしっかりと摂っていきましょう。

カーボローディング

カーボローディングの際に気をつけること

炭水化物をたくさん摂る≠カロリーをたくさん摂る

これまでもお話ししてきたように、カーボローディングで食べる高糖質食は炭水化物(糖質)の割合を高める食事になります。1日の消費カロリーよりも摂取カロリーが大きく超えてしまえば、グリコーゲンとしてだけでなく、体脂肪もついてしまいます。また、ランニングの量を減らすため普段よりも消費カロリーが減ります。そのために脂質を少なくして、カロリーの帳尻合わせを行います。

実際にカロリー計算をしながらカーボローディングをするのは大変難しいので、初日から体重を測り急激な増加をしていないか確かめながら行っていきましょう。

走行距離は伸びるが、スピードは変わらない

カーボローディングは車で言う“ガソリン満タン”状態になったことに過ぎません。ガソリン=グリコーゲンが満タンに近い状態でスタートすることで、目的地=ゴールまでの距離・スピードが維持できる距離が伸び、記録の向上は期待できます。スピードを上げ過ぎてしまえば無駄にグリコーゲンを使ってしまうため、落ち着いて序盤のペース配分をしていきましょう。

一度はサブレースなどで試しておく

カーボローディングも実際に効果が出せるかどうかは人それぞれです。前述のデメリットが大きく出る場合もあるので、自分にとってカーボローディングが本当に合うのか?を本命レースの前の“サブレース”で試しておくことがいいですね。本命レース以外のレースにエントリーしていない場合は、20㎞・30㎞走や3時間走などの長い距離を走る練習の際に、実際に取り入れてみるといいですね。

脂質のみで行けるだろう!というのは間違い

最近は低糖質に関連した食事法があるため、炭水化物は摂らなくても大丈夫という話も出てきます。しかし、ハーフマラソンやフルマラソンで走り切るため炭水化物を摂った方が効果的です。事実、長期間の低糖質食で体を慣らしたとしても、パフォーマンスは改善しない報告が多くあります。

ウルトラマラソンのようにフルマラソンよりもペースを落として走れば、バテずに完走できる可能性は高くなります。ただ、「自分の限界を知りたい」「やり切った」という歓喜のFINISHを味わうためは物足りないかもしれません。きちんとしたステップを踏めば、カーボローディングは必ずあなたの味方をしてくれます。

カーボローディング

まとめ

カーボローディングはただ炭水化物を含む料理を食べるだけでなく、

・数日前にハードなランニングでグリコーゲンを減らしたり
・筋グリコーゲンになりやすい糖質(デンプン)を選んだり
・走る量を徐々に減らしていったり
・当日の朝食は軽いものにしたり

など、細かなステップを踏むことでようやく理想的なスタートラインに立てるようになります。きちんと行えれば、持っている力以上のパフォーマンスを引き出すことが可能になりますが、闇雲に食べているだけではスピード低下・腹痛などの逆効果になってしまう“諸刃の剣”でもあります。本命レースまでの数か月間の努力、そして記録更新のためにも何度か試す機会を設けながら、自分に合ったカーボローディングのシナリオを作っていきましょう!

December 17, 2023/栄養・サプリメント/

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