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ランニング障害としての『シンスプリント』に対する最新研究〜MTSSという病態の正しい理解

医学分野の研究は日進月歩と言われる中、常に新情報に触れるということは非常に重要です。

しかし、実際に世の中の全ての人が最新の知見に触れるということは不可能ですし、そもそも学会に発表されるような内容は難しくて一般の方が読み解くのははなかなか大変なことです。

私は理学療法士として10年間臨床現場に立ち、現在は信州大学で助教として教鞭をとる毎日ですが、日々のライフワークとしてPhysio Explorerという媒体の中でできるだけ新しい知見となる論文を日々情報発信してきました。(こちらは医療従事者向けであり、自分のアウトプットの場として利用しているので少し難しい内容になっています)

今回はご縁があって、このRUNNING CLINICの中で記事を担当させていただくことになりました。私が興味深いなと感じた最新の知見から、皆さんにお役に立ちそうな情報を噛み砕いてできるけわかりやすくお伝えしたいと思います。

 

 

シンスプリント」に関する新たな捉え方

臨床の現場に立つ中で、これまで様々なスポーツ障害を診てきました。スポーツ特有の動きや癖がスポーツ障害の原因となるため、それにあった治療を施すというのはとても難しいことです。しかし、なかなか治らないと悩む怪我の多くは「治療の見立て(原因)が間違っている」もしくは「アプローチ方法(手段)が間違っている」かのどちらかケースであることがほとんど。

そういった意味では、 「治療を行う側の人間」はできるだけたくさんの症例に触れて、その中で原因になりうる要素をしっかり見極める必要がありますし、 「治療を受ける側の人間」も正しい情報に触れて、その中で怪我と向き合うことがとても大切です。

本日ご紹介させていただくのは、シンスプリントと呼ばれるスポーツ障害についてのレビューです。“レビュー”と言っても馴染みがない方にはそもそもレビューって何だ?となるかもしれませんが、簡単にいうとさまざまな論文情報をまとめた評論くらいに理解してもらえるといいかなと思ってます。

シンスプリントは、これまで一般的に考えられてきた定義とは捉え方が変わりつつあります。そもそも、最近では「シンスプリント」よりも、「MTSS」という用語を使う傾向が強いです。感度の高い治療家さんやトレーナーさんとお付き合いがある方であれば、「MTSS」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか?シンスプリントというものを理解するために、MTSS(Medial tibial stress syndrome)というものを知っておくことが重要なので、レビューを元に整理していきましょう。

 

MTSSの診断・治療・評価方法に関するレビュー

シンスプリント、MTSS、疲労骨折はそれぞれ異なる概念である

まずご紹介したいのはシンスプリントとMTSSの違いについてです。これに関しては以下のリンク・雑誌が参考になりそうです。医療従事者向けなので、専門の書店にいかないと手に入らないような雑誌ですが、リンク先から内容をチラ見することができます。

▶︎ステップアップのための骨軟部画像診断(画像診断 35巻11号 )

《要点&要約》
・シンスプリントとは、運動によって誘発されるスネの【痛み】のこと
・MTSSとは、運動によってスネの内側に誘発される様々な【症状】のこと
・疲労骨折は、小さな外力が同じ場所に繰りかえしかかることで骨が損傷する【使いすぎによる骨折】のこと

「シンスプリント」「MTSS」「疲労骨折」の3つは混同されやすい概念ですが、厳密には違うものと考えたほうがいいです。シンスプリントは【痛み】にフォーカスされがちですが、MTSSはスネの周辺に出る【様々な症状】の事を意味します。

この部分の理解や説明が不十分だと適切な治療やリハビリが行われない可能性があるので、理解を深めることは非常に重要ですね。詳しい内容をお知りになりたい方はぜひリンク先のページをご覧ください。より専門的な内容をチェックすることができます。

MTSSを診断する際は病歴と身体所見の調査が必要

つぎに2018年10月にイギリススポーツ医学会誌に掲載されたWinters Mらの論文を紹介したいと思います。Winters MらはMTSSの診断基準について調査しています。

▶︎Medial tibial stress syndrome: diagnosis, treatment and outcome assessment

《要点&要約》
・スポーツ障害の多くは一定の診断基準が存在する
・しかし、MTSSに関してはそういった一定の診断基準が存在しない
・MTSSの診断基準に役立つ指標を探ってみた
・調査結果によるとMTSS患者のうち32%は繰り返し下肢の怪我を経験している
・MTSSを診断する上では「その他の下肢障害」も含めて診断することが重要

MTSSは「症候群」なので、単一の症状ではなく様々な症状が含まれています。だからこそ、 目の前に出ている痛み症状だけをみるのではなく、身体全体の身体所見をみることが重要だと示しています。もちろん、身体所見のなかでも特に「下肢の受傷歴」は診断の上では特に重要ですね。

MTSSに対するエビデンスのある治療はなかった!?

同じくWinters MらはMTSSに対する効果的な治療法を探る研究(レビュー)を2013年に探っています。少し時代が遡りますが、その当時の論文もみてみましょう

▶︎Treatment of medial tibial stress syndrome: a systematic review.

《要点&要約》
・MTSSに対する様々な治療法が提言されているが、その効果は十分に検証されていない
・これまでの研究で示された11の治療法に対して検証してみた
・いずれの治療法も実際に有用と言えるほどのものではなかった

MTSSに対する治療法は色々あったものの、どれも効果的というのはインパクトが弱く、決定的な治療法はなかったと示しています。そもそも MTSSの病態は非常に複雑なので、何か単一の治療法だけで解決するようなものではありません。この論文レビューからは、改めて多角的な治療の必要性が説かれたと言っても良いのではないでしょうか。

「MTSSスコア」の提言

上記の状況を踏まえ、Winters Mらは独自に診断評価項目を提言しています。こちらはリンク先より全文を読むことができるので、興味がある方はぜひチャレンジしてみてください。

▶︎The medial tibial stress syndrome score: a new patient-reported outcome measure

《要点&要約》
・これまでの研究により、MTSSに対する効果的な評価法や治療法はまだ明確になっていないことが分かった
・そこでMTSSスコアという新たな指標を作成した
・MTSSスコアは安静時痛、日常生活での動作痛、スポーツ活動制限、スポーツ活動時の動作時痛など
・部位としてはスネに沿った痛みをみる
・スネの痛みによる制約も測定する

Winters Mらの素晴らしいところは、MTSSに対する課題を示しただけでなく、自分たちで評価項目を作って発表したところにあります。もちろん、医学情報は日進月歩の分野なので、こういった評価基準もどんどんアップデートされることでしょう。ただ、 その時々での研究が叩き台になり、より良いものが作られる土台になってくることは間違いありません。先人が苦労して出した研究データは大切にしなければいけないですね。

 

まとめ

いかがだったでしょうか?

今回は、Winters Mらによる論文を中心にご紹介していきました。できるだけ噛み砕いた表現をつかったため、原文のニュアンスとズレることがある点はお許しください。より正確な情報を知りたい方はぜひ原文をご覧いただければと思います。(部分的になりますが、リンク先からも原文情報を確認することはできます)

私も高校時代は陸上競技部に所属し、駅伝で全国大会を目指すチームにいました。必死にトレーニングをやれば当然痛みが出ることもあります。当時はスポーツ障害に対する知識は十分にありませんでしたが、チームの仲間が病院(接骨院?)に行き「シンスプリントって診断された〜」と言っていたことも懐かしく思い出しました。

スポーツ障害はそのスポーツ特有の動きが引き金になっていることも多く、それらの予防・受傷後のリハビリも動作分析や復帰時期、さらにはポジション(種目)なども考慮しなければいけません。本当に奥が深い世界だと思います。

いろんな怪我にお悩みのみなさんのお力に少しでもなれたら幸いです。

December 11, 2019/怪我・故障/

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