秋のフルマラソンシーズンがいよいよ目の前に迫ってきました。
最近では年間を通してフルマラソンのレースに参加することも可能になってますが、日本の気候を考えればやはり10月以降がフルマラソンシーズンと言えるでしょう。この時期は
・夏の疲れが一気に出て、体調を崩す。
・レースシーズンが始まり、いきなり初戦で故障する。
・練習ペースを上げようと思ったら…上がらない。
・スイスイ、軽々ペースが上がる!と思ったら、故障した。
・秋から走り込もうと思ったら…走れない、動かない。
・目標レースに間に合わないかもしれない!ということに気付いた。
など、色々な課題や悩みに直面しがちです。レースが近づけば様々な不安も出てくるものですが、ただ漠然と悩むのではなく、その”悩みのもと”なっているものをしっかりと明確化し、その上で解決に取り組むことがとても大切です。今回はそのなかでも、レースシーズンに抱えがちな「レース終盤の失速」についてその対策のお話ししていきたいと思います。
なお、詳細はランニグマガジンクリール11月号(2019年9月21日発売号)に掲載されているので、ぜひ本誌もご覧ください!
Contents
レース終盤の失速を防ぐ
「レース終盤になると失速してしまう・・・」
こんな悩みありませんか?レース終盤の失速の原因は決して一つだけではありません。ペース配分の問題やエネルギーの問題(ガス欠)、レース当日の気候なども失速の原因になることがあります。失速を予防するためには様々な観点から対策を行なっていくことが重要ですが、そんな中でも効率の良いランニングフォームで走れているかどうかも非常に重要なポイントです。
なぜ失速してしまうのか?
多くの方が悩まれる終盤の失速。失速の原因となっているものは様々です
・ペース配分に問題がある
・お腹が空いてエネルギー切れになる
・脚が痛くなる
・足が攣ってしまう
・レース当日暑かった
・レース当日寒かった
などなど。。。こういった原因はレース当日に問題があるものと、レースに至る前の段階で問題となるものに分けられます。ここは非常に大切な観点で、「準備不足」だったのか「当日のミス」だったのかでやるべき対策は変わってきます。事前にどんなに準備をしていても、当日失敗してしまう(失速の要因となるミスをしてしまう)こともありますし、そもそもトレーニングの段階で準備不足であれば失速は必然的に起こってしまいます。
「負けに不思議の負けなし」という野村監督の言葉があるように、「失速に不思議の失速なし」です。まずは失速の要因を明確にしたうえで、対策をしていくことがとても大切です。
失速するとどんなフォームになるか?
今回はその中でも「ランニングフォーム」に着目したいと思います。その他の失速要因やその対策についてはクリール本誌に各専門家が詳しく記載しているので、ぜひご覧になってください
そもそもレースの後半になるとランニングフォームは力強さを失い、小さくなってしまいます。前半のびのびと走っていたランナーでも、失速して別人のようなフォームになっているランナーを見かけたことはありませんか?もちろん自分がその当事者になった経験がある方もいるでしょう。僕も例に漏れずしかりです(苦笑)
フォームが崩れるということは前半と同じように筋が力を発揮するできていないということを意味しています。筋力とランニングフォームはウラハラの関係にあるので、良いフォームを維持するためには、しっかりとした筋力を兼ね備えていることが絶対条件ですし、疲れてきて筋の機能低下が起こるとフォームは次第に崩れていってしまいます。
走れば当然疲れるので、そういった疲労現象をゼロにするということは不可能な話です。ただ、出来るだけエネルギーのロスを少なくして、レースの終盤になっても失速しないくらいの力を残せるように、上手に体を使っていくことは不可能ではありません。ここが非常に大事なポイントであり、今回の記事内容のメインテーマです。
失速を防ぐために重要な腸腰筋
ランニングにおいて重要な筋はたくさんあるので、これが弱くなっているとフォームが崩れますよ〜と断言できる筋があるわけではありません。そもそも一つ、あるいは限られた筋だけで走っているわけではなく、それこそランニング中は様々な筋が互いに連動するように作用し、その結果滑らかに動くことが可能になっています。どこか一つの筋に絞ってお話を進めることはやぶさかかもしれませんね。
ただ、あえて重要な筋を挙げるとすればやはり「腸腰筋」。経験的なお話になりますが、治療する立場としても、ランナーという立場でもこの筋の重要性は強く感じています。「コア」「骨盤」「体幹」といったキーワードが様々な雑誌で取り上げられるようになって以降、多くの方が耳にしたことのある筋になったのではないかなと感じています。
腸腰筋は「大腰筋」「腸骨筋」からなる筋(「小腰筋」を含めることもあり)で、主に股関節を曲げるときに重要な役目を果たすと言われています。また、人間が立っているときには、股関節を構成する骨盤の骨(寛骨)と太ももの骨(大腿骨)のジョイント部分(骨頭)を押さえつけるので、立位姿勢を安定させる上でも非常に重要です。
非常に特徴のある筋なので、この話は別の機会に深掘りしていきますが、上述したような特徴はぜひ押さえておいてください。
腸腰筋に関する研究
経験に由来する印象としてご紹介しましたが、実際にはこの腸腰筋に関する研究は非常に盛んです。高齢者の転倒予防に関する研究や短距離選手のパフォーマンスとの関係についての研究などなど、実に多岐に渡ります。
その一方で、長距離選手(マラソンなど)と腸腰筋の相関関係はあまり高くないと言われてきました。大きく股関節を曲げて走るわけではないですし、そもそもマラソンにおいては大きな力を発揮することよりも、いかに力をセーブして走るかのほうが重要視されますからね。ただ、近年では長距離選手にとっても腸腰筋が重要だと述べた研究結果も報告されるようになってきました。この研究の中では日本人の長距離選手とケニア人の長距離選手の身体的特徴を比べ、腸腰筋(特に大腰筋)の差を示しています。今後もこのような研究はどんどん進んでいくでしょうし、注目に値する筋であることは間違いありません。
腸腰筋の特徴
僕が腸腰筋に注目した理由は大きく2つ。一つ目は腸腰筋は萎縮しやすい筋だという点です。長時間座っていたり、高齢になって活動量が下がると顕著に萎縮がみられると言われています。そもそも、最近では和式トイレが減ったことで、昔に比べ得るとしゃがむ機会がすっかり減ったのは周知の事実です。また、ゆっくり長く走るトレーニングばかりだと、腸腰筋をしっかり使う機会もあまりありません。さらにさらに!!、デスクワークをされる方、デスクワークの後に走る方も多いと思います。そういった方はウォーミングアップなどで意識的に腸腰筋を動かすようにした方がいいです。これは終盤の失速予防ということだけに限らないですね・・・
そして二点目は腸腰筋は股関節を安定化させる重要な筋だということです。太ももの骨(大腿骨)の骨頭を押さえて関節のハマりをよくする作用があるため、この筋がきちんと機能していないと、着地が安定しません。これはランニングにおいてロスを生んでしまいますし、後半の失速にも繋がってしまいます。
腸腰筋はとても大切な筋と言われているので、ランナーのみならず普段は知らない人にとってもトレーニングをして無駄なことはありません。今回はこの腸腰筋のトレーニングを取り上げて終盤の失速対策にしていきたいと思います。
レース終盤の失速を防ぐためのトレーニング
ここからは実践編です。
腸腰筋を意識的に使うためには、ウエイトトレーニングで強化する方法、ランニング動作の中で行う方法、身近なものを使った方法など手段は様々です。今回は、普段のトレーニングの中に導入しやすく、怪我のリスクも低くて、簡単に続けられる「身近なものを使った筋トレ」を3種類ご紹介しようと思います。
どんなことをやるかよりも、どれだけ続けられるかの方が重要です。コツコツとこういったトレーニングを継続させてみてください。
トレーニングは股関節の屈曲動作がメイン。浅く曲げるだけでは太ももの表面の筋にばかり負荷がかかってしまうので、90度以上曲げるようにしましょう。目安を作るために、股関節に何か挟む方が良いのですが、今回は誰でも準備しやすいようにタオルを丸めたものを使いました。もしご自宅にボールなど挟みやすいものがあればそちらを使っても結構です。
股関節屈曲のアイソメトリック
1種目目は仰向けになって行うトレーニングです。こちらは失速予防だけでなく、故障明けでしばらく走ってなかった方が復帰前に行うトレーニングとしても使えるものです。故障している間は極端に股関節の屈曲頻度が下がるので、ランニングに復帰する前にこういった補助動作を入れると痛みが出にくくなります。
ヒップリフト
2種目目は片方の股関節はしっかり曲げますが、もう片方の股関節は伸ばす方向に力を入れます。ランニグ中は左右で股関節の動きが逆になるで、このトレーニングはよりランニングの動作に近くなっています。股関節に挟んだタオルが抜け落ちてしまうと、股関節の力が不十分な証拠なので繰り返し行ってください。
スタンドアップ
3種目目はこの動作をさらに強度を上げて行うものなので、強度はかなり高くなります。ランニングは片足立ちの繰り返しなので、最終的にはこういった立位でバランスを取りながら行う筋トレは非常に重要なので、ぜひチャレンジしてみてください。
まとめ
マラソンにおいて終盤失速すると「地獄を見た・・・」というくらい苦しいものです。気持ちよくゴールしたいなと思いながらも、そういう気持ち良さが必ず訪れるとは限りません。
今回は股関節に注目したうえで、身近なものを使ったトレーニングをご紹介しました。もちろんこれだけに限らず、トレーニグのバリエーションは多岐に渡りますし、慣れてくれば色んなトレーニングを行った方がいいです。これまであまり股関節のトレーニングとして意識的に行ってきたものがなければぜひこういったものをお試しください!
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September 28, 2019/ニュース/トレーニングマラソンメディア掲載情報動画股関節