心拍トレーニングの理論と実践『実践編』
適切な心拍トレーニングと心拍ゾーンによる強度管理

心拍トレーニングを実践するにあたって、「いつ・どんなトレーニングを・どのゾーンで」実施するか!?が厳密に定義されているわけではありません。

心拍トレーニングで定義されているのは「どんなトレーニングも、求めるゾーンを指標にして行う」ことだけです。「いつ・どんな」は、それとは別のところで考えるべき事柄になります。

したがって、自己流の「マイ・トレーニング」を、自分なりの目的と効果を定めて、心拍ゾーンを決めて取り組むことも出来ます(その有効性は、??な部分もありますが)。

ここでは、eA式マラソントレーニングをベースに、その具体的なプランを考えていきたいと思います。かなりざっくりと!ですが。言い換えると、eA式マラソントレーニングを、心拍トレーニングとして取り組む場合は、どういうやり方になるのか~ということになります。

※eA式マラソントレーニングとは?
世界で最も普及しているトレーニング法である「リディアード式」をベースに、日本の市民ランナーの環境に合わせてアレンジしたマラソン練習方法

 

心拍トレーニングを実施する際のポイント

そもそもの「eA式マラソントレーニング」の特徴を、心拍トレーニング的に端的に説明すると~

★ トレーニングの目的・効果別に、取り組み課題の時期を分ける。(期分け)
★ まず低強度でトレーニングの量を確保し、それから段階的に強度を上げていく。(漸進)
★ トレーニングの指標はあくまでも、「強度」とする。

ある意味、eA式は、非常に心拍トレーニングに向いていると言えるかも知れません。というか、本来、持久的トレーニングというのは、強度優先で取り組んでいくことが重要で、その強度設定を何に求めていくのか~が勝負なわけです。結果的に、その落としどころに「心拍」がくることは不思議でもなんでもありません。

別に心拍を使わなくても良いのですが、トレーニング強度に着目しないトレーニングプランというのは、何を、どう考えているのか、逆に疑問に思ってしまいます。月間走行距離ですか…?

心拍トレーニングのポイント:期分け

期分けのはじめは<走り込み>からです。

ただし、<走り込み>というのは、年間計画の1つの過程であり、1年中走り込んでいるわけではありません。そういう意味では決して、「トレーニング」と「走り込み」は、同義ではないのです。それを前提に<走り込み>を語ると、「期分け」と「漸進」の観点から、次のように考えていきます。

◎まずは、ゆっくり、そして短めから。
◎それから、ゆっくりのまま、徐々に距離・時間を伸ばしていく。
◎十分に、距離・時間が伸びたら、それからペースアップ体制にシフトしていく。

非常にシンプルな取り組みです。ポイントは「ゆっくり」とか「ペースアップ」とかいうところ。ここに、心拍ゾーンが絡んできます。

この時、気を付けたいのは、たとえいきなりでも、それなりの距離を、それなりのペースで走ることは可能だ!ということです。やれば、出来ちゃうわけなんですが、それが、いけない!のです。

少しペースを上げても出来るからOK!…なのではなく、適正な強度でやらないと十分な効果は得られないので、コントロールする必要があるのです。その基本が「漸進」であり、あえて弱いトレーニング強度から入り、段階的にきちんと上げていくことが必要なわけです。

実際に成功体験がないと、なかなか理解し難いことでもあるのですが、あえて「低く屈んで、高く跳ぶ!」ことの効果は、計り知れないものがあります。

心拍トレーニングのポイント:漸進

期分けの第一段階である<走り込み>がしっかりできたら、然るべきタイミングでその強度上げていきます。それが「漸進」という考え方。非常に重要なポイントです。

ここでよく引用されるのが「麻の芽の法則」です。本当かどうかは知りませんが─忍者は、修行の1つとして、麻の種をまき、芽が出てくると、その上を毎日飛び越えるといいます。最初はもちろん楽勝!なわけですが、成長の早い麻は、ぐんぐんとその丈を伸ばしていき、飛び越える方も、徐々に頑張り度が増していく~。どこかでとうとう飛び越えられなくはなってくるのですが、この過程で、跳躍力はかなり向上するというのです。

最初からある程度の丈の麻にチャレンジするのと、まだ丈の低いうちから段階的なチャレンジし続けるのとの違いは、実は非常に大きなものがあり、走り込みにおいてもこれは同様なのです。

つまり、楽勝!な距離、楽勝なペースから始め、徐々に距離を伸ばし、それから徐々にペースを上げていく。頑張って走れる距離を、頑張って走れるペースでチャレンジするわけではない~ここに走り込みの重要ポイントがあります。

心拍トレーニングのポイント:強度

トレーニングを評価する上で大事になってくるのは「量」ではなく「強度」。つまり、月間走行距離が○kmだからよし!ではなく、○kmをどれくらいのペースで走れたか?負荷は?余裕度は?楽勝?ゼーゼーハーハー?など「強度」を加味する必要が出てきます。

ではこの強度は何で測るかといえば、心拍トレーニングの理論と実践『理論編』でも書いたようにペースや主観、そして心拍数です。絶対とは言いませんが、この中でもっとも客観性が高いのはやはり心拍数。つまり強度を測る際にこの心拍数を使っちゃうわけです。

理論と実践が少しずつ結びつてきましたね〜難しい話&ややこしい話と毛嫌いせずに理屈を丁寧に一つずつ理解していくことで、より根拠のあるトレーニングが可能になってきます。データ収集も悪くはないですが、せっかくとったその心拍データをフル活用させましょう!結構面白い結果が出てくることも多いですから〜

 

心拍トレーニングの実践

理論も大事ですが、やはり大切なのは実践。

ここからは具体的な方法論について説明していきますが、実際にやってみて体で感じる&身をもって経験するということはとてつもなく重要で、とてつもなく参考になるものです。もちろん闇雲な実践は再現性にかけ、成果に繋がらない努力になってしまいかねませんが、頭で理解したうえで体を動かせば何かしら掴めてくるもんです。理論だけでも実践だけでも不十分で、この二つのバランスがどうか〜を見ていく必要があるということですね。

さてそういうことで、走り込みです。

心拍トレーニングの実践:走り込み

▶︎まずは、ゆっくり、そして短めから。それから、ゆっくりのまま、徐々に距離・時間を伸ばしていく。

ゆっくりというのは、低強度の意味です。人によって、ゆっくりと感じるペースは違いますが、心拍ゾーンでいうと、2~3くらいのレベルになります。これは誰でも共通。かなりゆるいです。重要なのは、この低強度を保ったまま、距離を伸ばしていくことです。
※短いから、速め(ゾーン高め)~にはしない。
※距離も伸ばし、強度も上げる(ゾーンを上げる)~ということはしない。

このあたりの加減が大切なのですが、意外とここで外してしまうことがけっこうありますね。最初からレースペースチャレンジ!みたいになると、ゾーンは4か、下手すると5くらいまで上がっちゃうこともあります。

低強度でまずはしっかり「量」をこなしましょう。そして、十分に、距離・時間が伸びたら、それからペースアップ体制にシフトしていきます。十分な距離・時間というのは、30Kmとか3時間とか、そういう単位をいいます。ゾーンを上げていく~つまりは頑張り度を上げていくのは、それからです。

心拍トレーニングの実践:強度の設定

▶︎強度の設定は現状の走力を踏まえた上で定めることが大原則!目標タイムありきでペースを決めることはできない!!

誰しも、秋冬のマラソンに対しての目標タイムというのがあります。より正確にいうと、このくらいで走りたい!という「希望タイム」ということですね。

んで、ここに大きな問題が生じてしまうのです。即ち、「○時間○分を出すためには、これこれこれだけの練習をしなければないない!頑張って、そういう練習にチャレンジしなければないない!」という問題です。当たり前じゃんと思うかもしれませんが、そこに注意しなければいけないポイントがあります。

たとえば、この秋冬に、サブ3.5を達成したい!という目標を立てたとします。レースペースは5分/kmですが、どんなペースで練習するのかって話になります。仮に、マラソンベストが(A)3時間35分、(B)3時間45分、(C)4時間のランナーがいたとして、この3人とも、サブ3.5を目指すのであれば、5分/kmのレースペースは体にとってどんな負荷をかけるでしょうか?

(A)さん
→20〜30km程度であれば余裕を持って走れる

(B)さん
→20〜30km程度でも余裕度はだいぶ縮小

(C)さん
→余裕度はかなり縮小、そのペースで走りきれない可能性もあり

そんなに複雑なお話じゃないですね〜。わかりやすいように少し極端な例を出しましたが、目標タイムと現状レベルがかけ離れていると適切な負荷になっていない可能性があります。自分の現状を棚に上げて目標タイムを何が何でも守るって方いませんか?

サブ3.5を達成するために、ど根性で頑張って、レースペースでの練習がこなせるようになりさえすれば、サブ 3.5を達成出来るようになる!ということなのかというと、そこに根本的な間違いがあります。

トレーニング強度によって、期待される効果は違います。トレーニングの大前提は、「目標タイムありき…ではない」ということ。ここで心拍数が登場してきますが、目的通りの負荷がしっかりかかっているかを客観的にチェックすることができます。細かく心拍数を読み込むことは面倒になるので、ゾーンを使ってトレーニングの負荷を管理するのが「心拍トレーニング」のミソです。

常にどの練習でも、適正ゾーンで練習していく必要があるのです。いつまでたっても、どこまで行っても!です。

心拍トレーニングの実践:強度を心拍ゾーンで考える

5分/kmのペース走で、20Kmなら走れる。25kmはちょっと…。疲れが出てきて、ペースが落ちてしまう…。でも、何度もチャレンジして、だんだんペースに慣れ、これが25Km、30Km、35km!となってくれば、レースでは、42Kmまで走り通せるようになるはず!!こういったトレーニングやられている方いませんか?実際のトレーニング場面を見ると、このケースは少なくないと思います。この練習パターンを心拍ゾーンで考えてみましょう。

その1:5分/kmのペース走で、20Kmなら走れる。25kmはちょっと…。疲れが出てきて、ペースが落ちてしまう…。

この練習において5分/kmペースで20kmというのはかなり高負荷の練習になっているはずです。25kmはちょっと…というくらいですから、負荷としては【 Z4の下~中くらいの強度】でしょう。これを繰り返していき、根性でやりきった!長く走れるようになった!!とします。満を辞して距離を伸ばします!!

その2:何度もチャレンジして、だんだんペースに慣れ、これが25~30Km走れるようになった

だんだんペースに慣れてきて距離が伸ばせるようになった!ということで余裕度は徐々に拡大していますおそらく序盤は【Z3の中~上】くらいの強度で推移していることでしょう。ところが、だんだんと後半になるにつれて余裕がなくなってくると負荷は【Z4の中〜上】あるいはそれ以上に一度グッと上がります。その負荷で続けることが苦しくなり、ペースがジリジリと落ちていくリスクが大いにあります。この時、心拍数も徐々に落ちてきて、【Z3の下〜中】くらいになっています。実はここに、このトレーニング方式の効率の悪さ、効果の薄さがあるのです。詳しくは「心肺」と「脚」のお話をご覧ください

フルマラソンの後半に失速した時のことを想像してみてください、足が動かなくなってしまうと、ペースは徐々に落ちていき、トボトボと歩くような感じになってしまいます。この時心拍数はバクバクでZ4の上とかZ5になっているかというとそんなことはありません。むしろグッと落ちてきます。こういった後半失速したマラソンレースの場合、最後まで失速せずに走りきったレースに比べ、数日後にはかなり回復していることが多いです。これは序盤に頑張って苦しい思いをしたけれど、後半は逆にペースが落ち、結果的に心拍数の高いところで、長時間走り続けていないためです。要は、思ったほど負荷がかからなかった&追い込めなかったということですね。

eA式の場合は、基本は「まず距離・それからペース(強度)」です。最初は、低強度=Z2~Z3下くらいで淡々と距離を踏みます。もう、この段階で、30Kmでも、場合によっては40Kmでも到達しちゃいます。低強度だから、それができるのです。

そして、十分な距離を踏めるようになったら、段階的にゾーンを上げていきます。Z3中、上、最終的にはZ4で30Km以上押すこともありますし、それができるようになってきます。

漸進の法則=トレーニング負荷は段階的に「上げていく」~、そしてトレーニング負荷は心拍数で管理する〜これですね。

 

心拍トレーニングの応用

フルマラソンのレース中の心拍数

そもそも、フルマラソンレースはどのくらいの強度(ソーン)で走るのか?

結論からいうと、個々の実力差や能力差があります。つまり、かなりゆっくりで十分な余裕を終始保たないと走り切れないランナーもいれば、逆に、終始ハーハーゼーゼーを押し通して走るランナーもいるということです。

走力水準が低ければ、追い込もうにも追い込み切れない。追い込むにはマラソンは長過ぎる…。ペース配分を間違えて早い段階からハーハーし始めてしまうと、もうマラソンにならない。こういうレベルだと、選択肢は、LSDのようにゆっくり・十分な余裕を確保して、負担なく淡々と距離を進めていくしかありません。結果的に、適正ゾーンは2~3くらいになります。3と言っても、そういうペースで走るというよりも、疲労で脚が動かなくなってきて、労力が増すということです。実質的にはLSDで押し切るようなものですね。

一方、頑張り度がかなり効くランナーの場合、ゾーンは4の上の方くらいで走り通せることもあります。それどころか、5に差し掛かってもイケちゃう人もいますね。おそらく…ですが、川内選手などは、こういったところの水準はかなり高いのではないかと思います。

その昔~バルセロナ五輪男子マラソンで銀メダルを獲得した森下選手も、「自分は他の人よりも1段階上のところで追い込むことができるようだ」というようなことを言っていたことがあるのですが、たぶんこれも、そういうことなのではないかと思います。その当時のレース中の心拍データなんていうのは残っていないのですが…。

レース中の心拍ゾーンを引き上げるトレーニング

そういうことで~「普通」のマラソンは、ハーハーしない強度でどれだけのペースを出せるのか~が勝負になります。ハーハーしながらもしっかり終始追い込めるのならそれはそれで凄いのですが、もしかしたらそれは、単なるペース配分、強度配分の失敗を繰り返しているだけかも知れません。ハーハーしない強度というと、やはりZ3~4くらいになるかと思います。Z4の下〜中くらいで走り通せたら、おそらくかなり効率は良いといえるでしょう。

ただこれは、誰でもそのくらいで走り通せる可能性がある!…という話ではありません。結局、どのレベルで走り通せるのかは練習の成果であり、ミドル走やロング走を、どのくらいのゾーンで、どのくらいのペースが出ているのか~で違ってくる/決まってくるものだということです。かなりきちんと整ってくると、トレーニング中のZ4見当のミドル走が、ざっくりでのマラソンレースペース水準になってくる傾向があるかと思います。

ただ、マラソンレースペースでロング走をやろうとしていたり、月間走行距離をメインの指標にトレーニングしていたりすると、このあたりはだいぶ違ってくるでしょう。

そもそも世界のトップから初心者まで、誰が走ってもフルマラソンは42kmですが、そのペースが違うというか、やはり頑張り度、強度が違うわけです。ゆっくりランナーからすると、高速ランナーは、楽に速く走っているように見えるかも知れませんが、実はそうではありません。ただでさえ速いですが、更に、追い込んでより速いペースを出しているわけです。逆に、ゆっくりランナーは、ヒーヒー言いながらやっと完走しているようにも見えますが、実は強度は上がっていません。上げたら完走すら出来ません。

ほぼZ5に近いところでマラソンを押し切るランナーもいれば、Z2以上は上げられないランナーもいる。このことは、トレーニングにも反映してきます。Z2でレースの大半を走り通すランナーが、トレーニングでZ4やZ5を多用する必要はないというか、効果的ではないわけですね。この点からいうと、距離は同じでも、決して「同じマラソン」ではないのです。これは、他の距離のレース~5Kでも10Kでもハーフマラソンでも同じことが言えます。言い換えると、それによってトレーニングも変えなければいけないわけです。

マラソンはZ2のランナーも、ハーフならZ3、10KならZ4くらいで走れるかも知れません。それならそういうところで練習する必要があるということです。

ただ、年間を通して、Z2~4&時々Z5で練習し、年間を通していろいろなレースに出る…というのもまたどうでしょう。浅く広く?的な取り組みは、結果も薄く(低く)なってしまう可能性があります。

そういうところに年間計画、シーズン、期分けといった考え方、方法論が出てくるわけでもありますね。

心拍トレーニングまとめ

心拍数は体が教えてくれる大事な情報です。非常に奥が深く難しいテーマですが、手軽に測ることができる時代になったからこそ、その活用方法が改めて問われている気がします。

ただ単純にデータを集めているだけ・・・という方は少なくないように思います。ある程度理解していてもそれを100%フル活用するのはかなりの知識と経験が必要になるでしょう。ランニングギアの発展が著しい時代なので、それに振り回されてしまいかねません。かつてGPSウォッチの影も形もないときは、コース上の距離表示を手がかりにしながら時計とにらめっこしたもんです。走りながら頭の中で計算することもありましたっけ。

心拍数だって、走っている最中に継続できなかった分、練習を終えた1分後に手首で計測し、それをノートに記録していました。「シンプル・イズ・ベスト」とは言いませんが、できることが限られていた時代はそんな中で工夫したもんです。

恵まれた時代にどんどん変わってきているからこそ、データを活用できる賢いランナーを目指すことが大事なのではないでしょうか。一度で理解しきれる内容だとは思ってないので、ぜひ繰り返し読んで腑に落としていってください〜。

October 1, 2019/トレーニング/