テレビ中継などでみかけるマラソンのトップ選手、実に引き締まった体をしていて、皆一様に細身の体系です。しかしその一方で、スポーツ選手という視点で見ていくと、か細くて頼りないような姿にも見えます。他競技のスポーツ選手とは明らかに違いますよね。そこで一つ疑問・・・
『長距離選手にウエイトトレーニング(筋トレ)は必要か?』
度々議論されるテーマですが、これは時代によって、あるいは立場によって肯定論も否定論も両方出てきてます。ウエイトトレーニングや筋トレに対しての良し/悪しは様々な言われ方をしますが、その特性をきちんと理解した上で、議論する必要があるでしょう。盲目的に良し悪しを語るのは少し乱暴なので、今一度きちんと筋トレやウエイトトレーニングに関する理解を深掘りしていきたいなと思ったのが、今回のテーマの大きな主旨です。
このテーマについて考えるにあたり、リィディアードが提唱するヒルトレーニングを引き合いに出しながら、マラソンランナーにとってのウエイトトレーニング(筋トレ)について見ていきたいと思います。どうぞご覧ください!
リディアードのトレーニング理論
まずはリディアードのマラソントレーニング理論から確認していきましょう。前回の記事も合わせて読んでもらえると、より理解は深まると思います。
リディアードが口を酸っぱくして唱えたことは「鍛えよ、ただし無理するな」でした。この言葉の中には、リディアードがマラソントレーニングの中で何を大切にしなければいけないかという想いの核となるものがギュッと詰まっています。
彼が推奨してきたのは、無理な負荷で追い込むようなことはせず、ゆとりのあるトレーニングを段階的にクリアしていくという『ステップアップ方式』。個人的には「公文式」に似ているなと思っているのですが、ゆとりを持ってこなせる課題を確実にクリアしていくようなイメージですね。
マラソン能力の土台は「有酸素能力」。走り込みによって養われる「基本的な持久力」が絶対的に必要であり、その上に「無酸素能力」や「コーディネーション」が上乗せされていきます。トレーニングのピラミッドは有名ですが、その中身をもう少し細かく分解していくと、適切な負荷で順序よくトレーニングを進めていく必要があるということになります。
土台が薄っぺらいとそれに上乗せされる能力は高く積み上がりません。また、段階的なステップアップができていない場合、本来伸びるべきところまで能力を引き上げられないということもあります。負荷設定もトレーニングの順序も非常に大切ですね。
細かい理論や具体的な方法論を全て理解するのは時間がかかりますが、「トレーニングのピラミッド」や「ステップアップ方式」がどういったものかイメージを用いて大枠を押さえておくことも有効です。文字よりも頭にのこりますし、理解も深まりやすいでしょう。
ヒルトレーニングとは
ヒルトレーニングは文字通りヒル(丘、坂道)を使ったトレーニングのことです。トレーニングの段階でいうと有酸素能力の開発の一つ上の段階になります。ヒルトレーニングと聞くとあまり馴染みのない言葉だと思いますが、リディアードのトレーニング理論の中ではとても大事な部分として説明がなされてきました。
ヒルトレーニングの前段階
繰り返しになりますが、リディアードのトレーニングの根本的な考え方は「Train, But Don’t Strain 鍛えよ、ただし無理はするな」でした。徹底した走り込みは当時のランナーを驚かせましたが、「余裕を持ってこなす」というものが根本的な考えにあったので、無理な負荷を要求しているわけではありません。
コツコツと走り込みを続けていくと、次第に同じペースで走っていても楽に感じるようになってきます。言い方を変えればそれは「余裕度が拡大する」ということ。同じ練習をこなしていたとしてもより少ない努力度でこなせるようになります。
しかしその一方で、練習の効果が鈍化するというデメリットも出てきます。いわゆる「慣れ」というやつですね。トレーニングは次第に強度を上げていくことが原則ですが、走りこみは単調になりやす練習でもあります。何も考えずにトレーニングをただこなしていると、いつの間には十分に効果が期待できないものになっていることもあります。
だからこそ、変化をつけるという意味でリディアードは走りこみが順調にこなせたら起伏のあるコースを走ることを推奨していました。そんなに難しいことではなく、自然とやっている方も多いですよね。
ヒルトレーニングの実際
そしていよいよヒルトレーニングの登場ですが、これはただ単に起伏を走るというものとは少し異なります。どちらかというと、動きづくりやドリルなどにイメージは近く、ヒル(丘、坂道)を使ってスキップやバウンディングと行った飛び上がる動作を中心に足の筋力の強化を行うというものでした。こちらはアキレス腱痛を予防するという意味でも非常に大切になるトレーニングです
スピードトレーニングは筋にも心肺にも大きな負荷をかけるため、いきなりこのレベルにあげるのは当然ながらリスクも上がります。スピードを上げるための前提(前段階)として、筋力や柔軟性、あるいは神経系の発達が必要であり、それを強化するのが「ヒルトレーニング」でした。
ランナーにとっての筋トレを考える
リディアードはこういったヒルトレーニングを提唱し、実際に多くの実績を残してきています。瀬古俊彦選手もヒルトレーニングを行なっていて、上記の「スティープヒルラン」で坂道を延々と駆け上がっている動画も残っています。
リディアードは足りない能力を補うためにヒルトレーニングを推奨しました。自然の地形を利用して行うヒルトレーニングはとても効率が良く特殊な器具や施設がなくてもすぐにできるものでしょう。もちろん正確な動作でやることは大切ですが、きちんと行えばウエイトトレーニングは行う必要がないと明言しています。
リディアードがこのトレーニング理論を提唱した当時は、今ほどウエイトトレーニングをやるための器具も豊富ではなく、特に一般ランナーがそういった器具を使うとなると、指導者も十分に足りている状況ではなかったのではないかと思います。邪推にはなりますが、これらの状況も踏まえた上で、総合的にウエイトトレーニングは必要ないと言ったのかもしれません。
その一方で、現在は使える施設も指導者もトレーニング情報も増えてきました。加えて、都市化の影響で起伏のある場所を確保することの方が難しい方もおそらくいるでしょう。走り込みからスピード練習に移行するにあたって、走り込みだけでは強化しきれなかった能力を補う必要があることは間違いありません。ただ、そのための補助トレーニングとしてヒルトレーニングではなく、ウエイトトレーニングなどの筋トレを行うことも大いにありで、一定の価値はあるでしょう。
一般的な筋トレのメリット/デメリットをまとめると以下のようになります。
《メリット》
・ランニングでは強化できない筋への負荷をかけることができる
・単調なランニングの動きではない負荷がかけられる
《デメリット》
・専門的な知識がないと効果があまり期待できない
・正しく行わないと怪我のリスクがある(特にウエイトトレーニング)
・適切な負荷でこなさないと体重の増加につながってしまう
メリットもデメリットも当然のものばかりなのですが、デメリットに記されていることは、正しい知識のもとで適切に行うことで防げるものばかりです。無知や無用に不安を煽る必要はなく、それよりも正しく行えるように理論補充して実践していくほうがよほど大事だと思います。要は、やり方次第ということですね。
こういった基本的なところをしっかり押さえた上で正しく行えば筋トレも決して悪いものではありません。要はきちんと理解しているかどうかであり、部分的な知識だけで筋トレを盲目的に過信することも、アレルギー反応的に毛嫌いするのもよくないでしょうね。
まとめ
今回は具体的な筋トレ内容に関しては割愛させていただきましたが、筋トレを行う根拠として知識を入れてもらえたら嬉しいなと思います。
筋トレというと、どうしても敬遠&軽視されがちなものだと感じています。様々な事情がありますが、「記録の向上を目指したい」「伸び悩んでいる」「怪我を繰り返したくない」などのニーズに対しては、非常に意味のある取り組みだと思います。夏から秋に移行するこの時期だからこそ、ぜひトライしてみてはいかがでしょうか?
みなさんの反応によっては、具体的な筋トレ(ウエイトトレーニング)の記事も追加していこうと思います〜。
September 9, 2019/トレーニング/コラムトレーニングマラソンリディアード筋トレ